対面営業・商談
個人塾の集客|チラシより先に、保護者の紹介が回る仕組み
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
個人塾で紹介が出ない本当の原因は何か
チラシを刷る前に、いま在籍している保護者の顔を思い浮かべてください。新規を10件、外から取りにいくより、いま通っている20家庭のうち1家庭が、友人の相談に答えてくれるほうが早く動きます。個人塾で先に枯れるのは、広告費ではありません。紹介の出口です。
この構造は、個人塾だけの話ではありません。士業・施術者・講師業など、人に会って仕事にする他業種でも、「一文を渡す」という考え方はそのまま使えます。
紹介が止まると、塾長は自分にこう言い渡しがちです。「紹介が出ないのは、うちの塾がその程度だと言われているのと同じだ」。この判決を下すと、生徒が減った月ほど授業準備を増やし、募集の話を後ろに回してしまいます。授業を良くすれば紹介は戻ると信じて、余計に授業へこもってしまう順番です。
紹介待ち型かもしれません。いい授業をすれば紹介は自然に出ると思っていて、思い出してもらう働きかけをしていない型です。腕のせいではありません。
でも構造は逆です。紹介が出ないのは、教え方が悪いからではありません。保護者が、友人に言える一文を持っていないからです。保護者は「いい塾です」とは言えても、「◯◯で困ってるならあそこ」とは言えません。褒め言葉は口に乗っても、紹介の言葉は口に乗らない。この違いを埋めない限り、授業をどれだけ良くしても紹介は増えません。
在籍20家庭の個人塾を思い浮かべてください。半分の10家庭が満足していても、そこから紹介が出るとは限りません。満足と、紹介という行動のあいだには、一段差があります。満足した保護者は「ここでよかった」と自分の中で完結しますが、そこから友人に声をかけるところまでは、自然には進みません。声をかけるための材料を、塾側が渡していないからです。
数字でも裏づけが取れます。マックスヒルズが実施したWebアンケート調査では、40代の保護者は入塾経路の44.2%が「紹介・口コミ」でダントツに高い割合でした。紹介は個人塾にとっておまけではなく、主要な入り口のひとつです。
この記事で渡す方法は1つだけです。保護者に「紹介してください」と頼むのをやめて、答えやすい一文を渡す。それだけです。
保護者の年代でやり方はどう変えるか
流入と発信には、ねじれがあります。同じ調査で見ると、20代の保護者は入塾経路の50%が「WEB」で圧倒的です。ところが入塾したあと自分から紹介した割合を見ると、20代は86.8%ともっとも高く、40代は36.4%ともっとも低くなっています。紹介で入ってくる年代と、紹介を出す年代は、同じではありません。

40代の保護者は紹介・口コミで入ってくる割合が最も高いのに、自分から紹介する割合は最も低い年代です。逆に20代は、Webで自分から調べて入ってくるのに、入ったあとは一番よく紹介してくれます。塾長が「うちは紹介が出ない」と感じているとき、実は年代を混ぜて見ていることが多いです。
理由は、口コミへの慣れの違いだと考えられます。20代の保護者は、自分自身が友人の投稿やSNSの紹介を見て動いた経験が多く、同じことを友人にする心理的なハードルが低いのだと思います。40代の保護者は、良いと思っていても「わざわざ言うほどのことか」で止まりやすい。だからこそ、40代には「わざわざ紹介して」ではなく、「聞かれたら答える」形で場面を渡す必要があります。
年代別に、打ち手を分けます。
| 年代 | 傾向 | 今月の打ち手 |
|---|---|---|
| 20代 | 紹介を出す力が最も高い。ただし新規の入口はWEBが中心 | 一文を渡すのはこの層から。同時に、教室名で検索したときの見え方を整える |
| 30代 | WEB経由と紹介経由、どちらの割合もある程度ずつ占める年代 | 一文を渡す動きと、Web整備の両方を同じ月に回す |
| 40代 | 紹介経由で入ってくる割合は最も高いが、自分からは出しにくい年代 | 「紹介して」ではなく「同じ学年で困っている方いませんか」と場面を限定して聞く |
在籍名簿は、10分で仕分けられます。
- 在籍名簿に、保護者の年代をざっくり書き込む
- 20代・30代の家庭に印をつける
- 印のついた家庭のうち、今月面談か連絡をした家庭に二重丸をつける
- 二重丸から3家庭だけ選ぶ
この3家庭が、今月の対象です。
40代の家庭には、「紹介して」ではなく質問の形で渡します。「同じ学年で、塾のことで困っている方いませんか。もしいたら、うちの名前だけ出してもらえたら助かります」。聞かれた側は、質問に答える形なので、営業をされている感覚が薄くなります。
NG例は、全家庭に同じ紹介カードを一斉配布することです。誰に向けた話か分からないカードは、いちばん出しやすい20代の家庭にも刺さりません。
この調査は、マックスヒルズが学習塾の利用経験者・検討者を対象に行ったアンケートです。対象は学習塾全体であり、個人塾に限定した調査ではありません。地域や科目による差は、各塾で確認してください。調査から時間が経過しており、Web環境の変化により現在の比率は異なる可能性があります。
紹介してくださいの代わりに何と言うか
保護者は塾を褒めたいわけではありません。友人の相談に、答えたいだけです。ママ友から「うちの子、数学だけ点が取れなくて」と言われた瞬間に、思い出せる言葉があるかどうか。そこがすべてです。

そのまま使える渡し方があります。面談の最後に口頭で1回、あとで同じ文をメッセージでもう1回渡します。
「もし周りで“数学だけ点が取れない”という話が出たら、うちは中1の計算まで戻ってやり直す塾なので、そのとき名前だけ出してもらえたら助かります」
頼んでいるのは紹介ではありません。場面と一文です。
一文の作り方は、3手順で組み立てます。
- 自分の塾がいちばん結果を出した困りごとを1つに絞る(英語の長文、中1からのやり直し、部活との両立など)
- 「◯◯で困っている人がいたら」の形にする
- 解決策は書かず、塾名だけ言えば済む形にする
同じ形は業種を変えても崩れません。施術業なら「”肩こりがひどくて困っている人がいたら”」、士業なら「”相続の相談先が決まっていない人がいたら”」のように、困りごとを1つに絞る組み立て方はそのまま流用できます。
3つ目が特に大事です。解決策まで保護者に説明させようとすると、保護者は説明責任を負うことになり、言うのをためらいます。塾名を出すだけで終わる一文にすれば、保護者は動けます。
自分の塾に当てはめると、こうなります。英語の長文が伸びる塾なら「“英語の長文だけ読めない”という話が出たら」。部活と両立できる塾なら「“部活で塾が続かない”という話が出たら」。困りごとを1つに絞るほど、保護者は使いやすくなります。
NG例は2つあります。ひとつは「お友達をご紹介ください」「ご紹介いただけると嬉しいです」という言い方です。誰に、どう言えばいいか分からないので、保護者は動けません。もうひとつは、チラシの束を保護者に渡して配布を頼むことです。営業を代行させる形になり、次の面談から距離ができてしまいます。
一文は、一度渡したら終わりではありません。困りごとの種類は、学年や時期によって変わります。中3の秋なら「志望校の過去問が解けなくて困っている人がいたら」、新小学生の春なら「勉強の習慣がつかなくて困っている人がいたら」。渡す一文を、その時期にいちばん多い相談内容に合わせて更新していくと、保護者にとっても「今ちょうど聞かれそうな話」になります。
紹介の話はいつ切り出せばいいか
一文を渡すタイミングは、3つに絞ります。

場面1は、結果が返ってきた直後です。定期テストや模試の結果を保護者に伝えたその日に渡します。「上がった理由」を保護者自身の言葉で言えるうちに一文を渡すのがコツです。1週間空くと、理由が薄れてしまいます。
場面2は、学年の変わり目と長期休み前です。2月から3月、7月前半がこれにあたります。保護者同士の会話に「塾どうする」が実際に出てくる時期なので、その前に一文を渡しておきます。
場面3は、保護者から感謝を言われたときです。「先生のおかげで」と言われたら、お礼だけで終わらせません。お礼を返したうえで、「同じことで困っている方がいたら」と場面をひとつ足します。お礼だけで区切ると、次の一言が出なくなります。
3場面に共通するのは、保護者の側にすでに「言いたいこと」がある瞬間だという点です。結果が出た直後は成果を、感謝を言われたときは感情を、保護者はすでに言葉にしています。そこに一文を重ねるだけなので、塾側から新しく何かを説得する必要がありません。逆に、保護者の中に何もない瞬間に一文を渡しても、記憶には残りにくいです。
3場面は、カレンダーに固定タスクとして置いてください。テスト返却日、2月1日、7月1日。思い出したときにやる形にすると、忙しい月から抜け落ちます。
NG例は、入塾説明会の場で新規の保護者に紹介の話をすることです。まだ結果を見ていない相手に言わせようとすると、売り込みとして相手の記憶に残ります。
チラシやサイトは紹介の受け皿になっているか
紹介された保護者が最初にやることは、検索です。口頭で塾名を聞いた保護者は、その場でスマホに教室名を入力します。紹介で来る流れと、自分で調べて動く流れは、別々の入り口ではありません。同じ導線の前半と後半です。
検索した保護者が、3秒で確認する点は4つです。
- 場所と地図
- 対象学年と科目
- 料金の目安
- 誰が教えているか(顔と経歴)
このどれかが欠けていると、紹介の熱があっても、そこで止まってしまいます。
チラシの役割も変えます。新規を1件でも多く取るための紙ではなく、紹介された保護者が「これで合ってる」と確認するための紙にします。だから、塾名・住所・料金・電話番号を小さくしません。
受け皿としての最低ラインは、チェックリストで確認できます。
- 教室名で検索して、1画面目に自塾の情報が出るか
- 営業時間と体験申込の連絡先が、1タップで分かるか
- 料金が「お問い合わせください」だけになっていないか
- 写真に、教室の中が写っているか
NG例は、一文を渡す前にチラシの新規配布から始めることです。受け皿が空のまま外に配ると、反応がなかった事実だけが残って、動けなくなります。
受け皿を整える作業は、大がかりなリニューアルである必要はありません。既存のホームページや地図アプリの情報を、4点のチェックリストに沿って見直すだけで十分です。土曜日の午前中に1時間あれば、ひととおり確認できる作業量です。
紹介の謝礼や割引は何に気をつけるか
謝礼を出すと、かえって保護者が言いにくくなることがあります。友人に勧めた理由に「自分の得」が混じるため、口に出しにくくなる家庭があるからです。「いくらかもらえるから勧めた」と思われたくない、という感覚です。
出すのであれば、金銭よりも手間の削減にします。入会金の免除、体験の日程を優先で押さえる、兄弟の教材費の扱いなど、紹介された側にも意味がある形にします。紹介した保護者だけが得をする設計は避けてください。
謝礼の有無より効くのは、事後報告です。紹介が入ったら、結果がどうであれ、紹介元の保護者に一言返します。「体験に来ていただけました。ありがとうございます」。ここを返さない塾は、2回目の紹介が出ません。
NG例は、紹介キャンペーンの掲示を教室に貼りっぱなしにすることです。常設は制度になり、制度は空気になります。伝えるのは掲示ではなく、面談での一言です。
事後報告の一言は、テンプレート化しておくと続けやすくなります。「◯◯様のご紹介で、△△様が体験にお越しくださいました。ありがとうございます」という形を1つ決めておけば、忙しい時期でも送り忘れが減ります。紹介した保護者は、この一言を受け取って初めて「ちゃんと届いた」と分かります。
謝礼・割引の設計は、特定商取引や広告表示の扱いに関わる場合があります。金額や条件を決めるときは、専門家に相談してください。
謝礼や場面設計も含めた紹介営業全体の考え方は、紹介営業のはじめ方 完全ガイドにまとめています。
紹介が一度も出ないときは何をすればいいか
紹介の仕組みは、7日あれば動かせます。迷ったときの判断基準は、保護者が答えやすい一文を先に渡す順番を思い出すことです。

1〜2日目は棚おろしです。在籍名簿に保護者の年代を書き込み、20代・30代の家庭に印をつけます。直近3か月で成績が動いた生徒には二重丸をつけます。対象を3家庭に絞ります。
3〜4日目は一文を作る日です。自分の塾がいちばん結果を出した困りごとを1つ選び、「◯◯で困っている人がいたら、うちの名前だけ出してください」の形に書きます。紙に書いて、声に出してみてください。言えない文は、現場でも言えません。
5〜7日目は渡して記録する日です。3家庭に、面談か電話か個別メッセージで1回ずつ渡します。渡した日、相手、使った一文をノートに1行残します。反応の有無は評価しません。記録が残れば、来月同じことができます。
1か月後の見方も決めておきます。紹介が0件でも、失敗ではありません。見るのは「渡せたか」だけです。渡した数がゼロの月は、忙しさが原因ではなく、場面をカレンダーに置いていないことが原因です。
毎回いちから考えないための持ち方もあります。一文、渡した日、相手をA4一枚で管理してください。これが、個人塾にとっての営業資料になります。
紹介が出ない塾長に足りていないのは、教える力ではなく、この7日間の手順であることが多いです。7日間を1周してみると、「紹介が出ないのは、うちがその程度だと言われているのと同じだ」という判決が、事実ではなく思い込みだったと気づけるはずです。
紹介や人脈づくりの基本作法は、対面営業の作法・人脈術 完全ガイドでも詳しく解説しています。
よくある質問
個人塾の集客でチラシは今でも効果がありますか?
効果の有無より役割の設定が先です。チラシは新規を取るための紙ではなく、紹介された保護者が「この塾で合っている」と確認するための受け皿として作ります。塾名・住所・料金の目安・連絡先を小さくしないことが大事です。在籍保護者に一文を渡す前にチラシの配布から始めると、反応がなかった事実だけが残ってしまいます。
開校したばかりで在籍生がゼロのときは、何から始めればいいですか?
渡す相手がまだいないので、順番が変わります。まずは教室名で検索したときに、場所・対象学年・料金・教える人が分かる状態を作ってください。20代の保護者は入塾経路の50%がWEBという調査結果もあります。そのうえで、最初の数名に結果が出た時点で一文を渡す設計を、最初から組み込んでおきます。
保護者に紹介をお願いすると、押し売りだと思われませんか?
「紹介してください」と頼むから重く感じます。頼むのは紹介そのものではなく、場面と一文です。「”数学だけ点が取れない”という話が出たら名前だけ出してください」なら、保護者は説明責任を負わずに済みます。伝えるのは面談の最後に1回、同じ文をメッセージで1回までにしてください。
紹介してくれた保護者に謝礼や割引は出すべきですか?
必須ではありません。金銭の謝礼は、かえって言いにくくする場合もあります。出すなら入会金免除や体験日程の優先など、紹介された側にも意味がある形にしてください。それより効くのは、紹介が入ったら結果に関わらず紹介元へ一言返すことです。ここを返さない塾は、2回目の紹介が出にくくなります。なお、謝礼や割引の条件設計は広告表示の扱いに関わることがあるため、専門家に相談してください。
紹介を頼むタイミングはいつがいいですか?
3つに固定します。①テストや模試の結果を保護者に伝えたその日 ②学年の変わり目と長期休み前(2〜3月、7月前半) ③保護者から感謝を言われたとき。思い出したときにやる形にすると忙しい月から抜けるので、カレンダーに日付でタスクとして置いてください。
参照した情報源
- 学習塾集客の約8割はWeb、チラシ、口コミから! マックスヒルズ、入塾経路に関するアンケート調査を実施(株式会社マックスヒルズ(PR TIMES/@Press配信))・確認日 2026-09-01
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