対面営業・商談
社労士が開業後に仕事を取る方法|紹介で顧問先が増える動き方
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
社労士として開業したのに、問い合わせが来ない。実務はできるのに、仕事の話がどこからも来ない。そう感じているなら、足りないのは実務経験ではなく、紹介する側から見た渡しやすさかもしれません。
仕事が来ないのは、実務経験が足りないからではない
開業社労士の63.7%が『顧客獲得の難しさ』を不安・ストレスに挙げている
実は、同じ壁にぶつかっている社労士は少なくありません。不安やストレスとして「顧客獲得の難しさ」に当てはまると答えた人は63.7%です。実務の力ではなく、仕事の入口のところで多くの人が同じ不安を抱えています。
一方で、独立を選んだ理由そのもの——誰にも管理されず、自分のペースで働けること——は、すでに手に入っている人が多いはずです。自由は手に入っている。空席になっているのは、仕事が入ってくる入口だけです。
実務経験が足りないから、ではない
紹介待ち型かもしれません。良い仕事をすれば紹介は自然に出ると思っていて、思い出してもらうための働きかけを何もしていない型です。
顧問契約の多くは、相手の会社で何かが起きた日に動き出すというのが筆者の見立てです。初めて社員を雇う日、労基署の調査が来た日、助成金の話を聞いた日。その日に名前が浮かばなければ、腕があっても声はかかりにくくなります。
声がかからないのは、実務経験が足りないからではありません。その日に、相手の頭の中に自分がいなかったからです。実務の勉強を続けても、その日の記憶には何も足されません。
1人事務所が56.4%という前提
事務所の体制は「1人」が56.4%と半数を超えます。つまり、自分の代わりに営業をしてくれる人は、構造的にいません。仕事を取る動きも、事務所の中の一人が全部背負うことになります。
顧問契約社数の中央値は10.0社です。10社という数字は、10回誰かに思い出されて実際の契約に結びついた結果だと、筆者は読み替えています。1年目にゼロでも、2年目に1社でも、遅れているとは限りません。
紹介は好意では出ない。紹介する側が抱えている3つの怖さ
紹介者が気にしているのは、自分が恥をかかないか

紹介は好意ではなく、信用の貸し出しです。紹介営業の基本を踏まえると、社長仲間に「いい社労士がいるよ」と渡して、もし対応が期待外れだったら、渡した側の顔が潰れます。
「いい人だから紹介する」ということは、実はほとんどありません。紹介する側は、まず自分が恥をかかないかを考えていることが多い、というのが筆者の実感です。頼まれてもいないのに社労士を紹介する人は、頭の中で一度、失敗したときの自分の立場を想像していることが多いはずです。
紹介できない3つの理由は、全部こちら側の準備不足
紹介したいと思ってくれた人が、実際には紹介できないことがあります。理由は3つです。
- 何が得意な社労士か、一文で言えない
- 料金がいくらくらいか、見当がつかない
- どう渡せばいいか(連絡先を伝えるだけでいいのか、間に入るべきか)分からない
例えば、社長仲間に「知り合いに何やってる社労士がいるの?」と聞かれて、「労務全般です」と答えると、そこで会話が止まります。相手は次にどう続けていいか分からず、話題を変えてしまいます。
3つとも、紹介者の気持ちが足りないのではありません。渡せる形にこちらが整えていないだけです。
NG例:「労務全般やっています。何でもご相談ください」
この一文は、紹介者が口に出せません。「労務全般」を紹介文に変換する方法が思いつかないからです。
- 「知り合いに社労士がいるよ」で止まる紹介
- 「初めて社員を雇うなら、この人に聞くといい」で進む紹介
差はここにあります。何でもできると言われるほど、相手は何を頼めばいいか分からなくなります。
紹介者がそのまま口に出せる一文をつくる
一文の型:〈どんな会社〉の〈どんな困りごと〉を〈どうする〉人

型はこうです。〈どんな会社〉の〈どんな困りごと〉を〈どうする〉社労士。
- 従業員数の少ない建設会社で、36協定と就業規則を作り直す社労士
- 初めて社員を雇う飲食店の手続きを一式引き受ける社労士
- 訪問介護の加算の書類を毎年見ている社労士
このまま名乗って構いません。自分の状況に合わせて言葉を差し替えるだけで、紹介者がそのまま口に出せる一文になります。
作った一文は、声に出して読んでみてください。読んでいて詰まる、あるいは長すぎて息継ぎが要る場合は、まだ紹介者が覚えられる長さになっていません。一息で言えるところまで削ります。
得意分野は実績ではなく、前職で一番多く触った業種から決めていい
開業直後は、実績で得意分野を選べません。それは当たり前のことです。
前職で一番多く担当した業種、家業、身近にいる社長の業種から、いったん仮に置いてしまって構いません。半年やってみて合わなければ、そのとき変えればいいだけです。最初から正解を出そうとするより、名乗って動き始めるほうが早く進みます。
NG:「社会保険手続き」「助成金」だけを名乗る
「社会保険手続きができます」「助成金に強いです」だけでは、どの社労士も同じことを言うので区別がつきません。
助成金は制度が変わると、その入口ごと消えることがあります。制度の細部にまで踏み込んで名乗るのではなく、個別の適用可否は所管の窓口や専門家に確認するよう案内するにとどめたほうが安全です。
顧問契約が動く5つの瞬間と、その日に思い出されるための準備
5つの瞬間を表にする

顧問契約は、相手の会社で何かが起きたときに動きます。誰が先に知るかも、瞬間ごとに違います。例えば、初めて社員を雇う設計事務所の社長は、まず顧問税理士に「社会保険はどうすればいいか」と聞きます。そこで税理士の頭に名前が浮かぶかどうかが、声がかかるかどうかを分けます。
以下は筆者の想定であり、調査データではありません。
| 相手の会社で起きること | 誰が先に知るか | その日までに済ませておく準備 |
|---|---|---|
| 初めて社員を雇う | 税理士・保険代理店 | 一文の自己紹介を1回渡してある |
| 人が増えて手続きが回らない | 顧問税理士 | 料金の目安を口頭で言える |
| 退職や残業でもめた | 社長仲間 | 一文の自己紹介を1回渡してある |
| 労基署の調査が来た | 同業・保険代理店 | 相談だけでも受けられると伝えてある |
| 助成金の話を聞いた | 金融機関・商工会 | 一文の自己紹介を1回渡してある |
準備の欄は、どれも今日中にできることです。特別な営業活動ではありません。
発注は探して起きるのではなく、起きたときに探される
問い合わせを待つのは、悪いことではありません。ただ、待っているつもりで、実は「置き場所」を作っていないだけということがあります。
自分から相手を探すのが苦手な人ほど、他人の頭の中に自分を置いておくほうが向いています。表の準備欄を埋めておけば、探すのは相手の役目になります。
中央値10.0社という数字の読み方
顧問契約社数の中央値は10.0社です。これは、毎月新しい契約を取り続けた結果の数字ではありません。
この中央値10.0社は、開業年数を問わない全体の数字です。開業直後の人も長年やっている人も含めた全体の中央値が10社です。月単位の成果で焦る必要はなく、半年、1年という単位で数えるほうが、実態に近い基準になります。
開業90日でやることの順番(30日ごとに変える)
最初の30日:名刺ではなく「一緒に仕事をした人」を何人か書き出す

交換しただけの名刺ではなく、自分の仕事ぶりを実際に見た人を書き出します。元同僚、前職の取引先、同期、家業のつながり。
名前、会社、最後に会った日、その人が知っている自分の一面。この4列で表を作ります。この段階では誰にも連絡しません。まず全体を見渡してから動くほうが、思いつきで連絡して後悔することを防げます。
31〜60日:頼まない連絡を出す
「開業しました」の一斉送信で終わらせません。1通ずつ、近況とその人に使える話を1つだけ添えて送ります。仕事の依頼は書きません。頼むのが苦手な人でも、これなら出せます。
例えば、こういう文面です。
ご無沙汰しています。おかげさまで独立し、社労士として活動しています。最近、雇用契約書の相談を受けることが多いのですが、抜けやすいのは基本給と手当の内訳の書き方でした。またお会いできたら嬉しいです。
仕事を頼んでほしいとは、一言も書いていません。それでも、相手の頭には「困ったら相談できる人」として残ります。
61〜90日:頼み方だけ変える
「顧問先を紹介してください」ではなく、「初めて社員を雇う会社が周りにあったら教えてください」と伝えます。
誰を探しているかまで言うと、相手は頭の中で顔を照合できます。全員に同じ文面を送り直すのはNGです。相手ごとに、思い当たりそうな場面を変えて渡します。
税理士・保険代理店とのつながりは、先に1件返してから
「相互紹介しましょう」は成立しない
初対面でいきなり「お互いに紹介し合いましょう」と交換条件にすると、どちらも動かないまま終わります。相手はまだ、こちらの仕事を一度も見ていないからです。
まだ実績のない開業直後は、返せるものが仕事以外にあります。
仕事がなくても返せるもののリスト
- 労基署の調査で最初に見られる書類
- 就業規則のひな形をそのまま使ったときの落とし穴
- 雇用契約書で抜けやすい項目
- 年度更新の時期
これらを、相手が自分の顧客にそのまま話せる形に整えて渡します。A4一枚に「見られやすい書類・よくある落とし穴・次に確認する時期」の3行だけをまとめる、あるいは口頭で30秒にまとめて話す。凝った資料である必要はありません。法解釈の断定は避け、個別の判断は専門家に相談するよう添えるのが安全です。
NG:名刺交換の翌日に「顧問先をご紹介ください」
相手はまだ、こちらの仕事ぶりを一度も見ていません。何を紹介していいか分からない段階で頼まれると、断る手間だけが残ります。先に1件、仕事以外で返してからです。
まずは安くで受けると、紹介の単価まで決まる
最初の1社の金額が、紹介先の相場になる
紹介は、金額ごと伝わります。「あそこは安くやってくれるらしい」という評判で次が来ると、その後も値段の話しかできない相手が続きます。断りにくい相手ほど、最初の金額をどう決めるかが後々まで響きます。
総額を出さず、中身を分ける
手続き代行、相談対応、給与計算、訪問回数、スポット対応。分けて提示すると、値段の話が条件の話に変わります。
例えば「総額でいくらですか」と聞かれたときに、「手続き代行はここまで、相談対応は月に何回まで、それ以上はスポットで」と分けて答えると、相手は削れる部分と削れない部分を自分で選べます。総額だけを答えると、相手に残る選択肢は「高いか安いか」だけになります。
公的な相場の数字は今回のソースに含まれていないため、金額そのものはここでは書きません。
受けない仕事を先に3つ決めておく
- 記録が残っていない未払い残業の後処理を丸ごと引き受ける
- 社長の言い分だけを聞いて規程を作り直す
- 無料相談の延長で作業まで進む
断る基準を先に紙に書いておくと、断れないまま予定が埋まるのを防げます。個別の法的判断が必要な場面は、弁護士など専門家に相談することを前提にしてください。
1年目に数えるのは売上ではなく、思い出してもらった回数
記録するのは2列だけ
問い合わせ、相談、紹介の打診があったら、「誰から」「何がきっかけで」の2列だけ記録します。売上だけを見ていると、何が効いたのか分からないまま2年目に入ります。
月1回、3項目を見直す
- 今月声をかけてくれた人
- 半年以上連絡していない人
- 自己紹介の一文を言い換えた回数
3項目とも、5分あれば埋まります。半年以上連絡していない人の欄が増えてきたら、その月のうちに1通だけでも連絡を出します。
うまくいったやり方を1つのファイルに残す
送って返事が来た連絡文、断ったときの言い方、見積の分け方。1つのファイルに残しておくだけで、毎回いちから考え直さずに済みます。翌年の動きが、確実に軽くなります。
開業して仕事が来るかどうかは、実務の実力だけでは決まりません。紹介者がそのまま口に出せる一文を用意し、顧問契約が動く瞬間に自分の置き場所を作っておく。地味な準備の積み重ねが、思い出してもらう回数を増やしていきます。
よくある質問
社労士は開業1年目、顧問先が何社あれば普通ですか?
1年目だけを切り出した公的な数字は見つかりませんでした。開業社労士全体では、顧問契約社数は中央値10.0社・平均33.2社です。これは何年もかけて積み上がった数字です。1年目に数社でも、遅れているわけではありません。数えるべきは契約数そのものより、自分を思い出してくれる人が何人いるかです。
実務経験がなくても社労士として開業して仕事は取れますか?
経験の量よりも、誰のどんな困りごとを引き受けるかを一文で言えるかどうかで、紹介は動きます。得意分野は前職で一番多く触った業種から仮に置いてよく、後から変えられます。分からないことはその場で曖昧に答えるより、持ち帰って調べると伝えたほうが信用が残ります。
ホームページとSNS、どちらを先に作るべきですか?
開業直後は、紹介された人が確認できる場所が1つあれば足ります。載せるのは、得意分野を表す一文、料金の考え方、連絡先の3つです。毎日更新することより、紹介された人が5分で「頼んでよさそうか」を判断できる状態を先に作ることが優先です。
異業種交流会に出れば顧問先は増えますか?
出席した回数では増えません。増えるのは、その場で何をする人かを覚えられて、後日1対1で会えたときです。名刺の枚数ではなく「翌週もう一度会える人が1人できたか」で数えると、行くべき会かどうかも判断しやすくなります。
顧問料はいくらに設定すればいいですか?
金額の相場は、今回使えるソースには含まれていないため断定できません。ただし、総額だけを出すと値段の話しかできなくなります。手続き代行・相談対応・給与計算・訪問回数に分けて示すと、条件の話に変わります。最初の1社を安く受けると、その金額がそのまま紹介先にも伝わる点は踏まえておいてください。個別の金額設定は状況によって異なるため、必要に応じて専門家や同業者に相談することをおすすめします。
参照した情報源
- 2024年度 社労士実態調査 調査結果 概要(全国社会保険労務士会連合会 社会保険労務士総合研究機構)・確認日 2026-08-31
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