シリーズガイド|対面営業・商談
お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
金額が言えないのは、度胸がないからではない
見積書の金額欄で手が止まる
見積書を作っていて、金額の欄だけ数字を打っては消す。書いた数字を消して、また別の数字を打つ。送信ボタンを押すのを翌日に延ばし、実際に送るときには「お忙しいところ恐縮ですが」を3行足している。打合せの場で「ご予算はいくらですか」と聞かれると、自分の金額を言う前に、相手の額に合わせてしまう。こういう場面に、覚えがある人は多いと思います。
交渉が下手だから、ではない
話し方の練習をしても、この止まりは直りません。理由は話し方ではなく、値段をその場で決めているからです。決まっていないものは、誰であっても口に出せません。逆に、事前に決めていれば、あとは読み上げるだけになります。金額を言えるかどうかは、度胸の問題ではなく、決めてあるかどうかの問題です。
値段が言えない型かもしれません
金額を言うことが、自分の値打ちを言うことになっていて、口に出せない型です。金額を言う瞬間、自分の値段を言っている気がするのだと思います。
渡したい許可は一つです。値段は自分の価値の点数ではなく、仕事の条件です。条件であれば、相手に会う前に紙に書いておけます。うまく話す必要はなく、決めてある条件を読み上げればいいだけになります。この記事は言い方の練習ではなく、会話の前に決めておく作業を渡します。
NG例: 金額を告げた直後に「高いですかね」「調整もできます」と自分から言葉を足す。相手が何も言っていないのに、自分で値引きの入口を開けてしまっています。金額のあとに続けていい言葉は、内訳の説明だけです。
金額を言う前に確認する1つの基準
送る前に、自分に1つだけ確認してください。いま出そうとしている金額は、紙に書いた条件を読み上げているだけか、それともその場で考えて出した数字か。後者なら、いったん手を止めます。条件を書き出してから出し直すほうが、あとで金額を動かさずに済みます。
値段の決め方:相場を見る前に、自分の3つの数字を出す
相場サイトを検索する前に、自分の数字を3つ出しておきます。順番を守ることが大事です。相場は最後に見るものであって、最初に見るものではありません。

①1日いくら必要か
たとえば、生活費と経費で月何万円かかかり、営業や事務の時間を除いて実際に手を動かせるのが月15日だとすると、1日あたり何万円かが下敷きになります。これは稼げる額の話ではなく、動かせない自分の原価の話です。稼働日数を多めに見積もると、この数字は簡単に小さくなってしまうので、実際に手を動かせる日だけを数えます。
②その仕事に本当に何日かかるか
制作時間だけで数えないこと。打合せ2時間、移動、修正2回、納品後のやりとりまで足します。作業だけなら3日で終わる仕事も、実際に動く時間を積み上げると4.5日になる、という計算になることがあります。1日何万円かで計算すると、何万円か×4.5日で何万円か。これがこの仕事の下限になります。制作時間だけを数えて安く出すと、あとから足が出るのはこの差分のせいです。
③これ以下は受けない線を、先に紙に書く
下限・標準・急ぎ対応の3つだけ決めて、手元に置きます。決めた線は、相手の顔を見てから動かさないこと。検索して出てくる相場サイトの平均額は、他人の稼働日数と他人の経費で出た数字です。自分の答えにはなりません。
NG例: 相場サイトで見た金額の真ん中に合わせる。自分の稼働日数も修正回数も入っていない金額なので、受注するほど時間が足りなくなります。
迷ったときの判断基準
3つの数字のうち、どれか1つでも今すぐ出せないなら、その場で金額を言わないと決めておきます。「持ち帰って計算します」と言うほうが、その場で適当な数字を口にするより、あとの自分を助けます。
総額だけで出すと、値段の話しかできなくなる
「一式何万円か」で出すと、相手は高いかどうかを判断しているのではなく、内訳が分からないので、動かせる唯一の数字である総額を触ります。3〜5行の内訳に分けると、質問は「安くなりませんか」から「修正はあと1回増やせますか」に変わることが多いです。値切られることを恐れるより、内訳を作ることのほうが効きます。

含まれないもの(3回目以降の修正、公開後の運用など)は先に書いておきます。書いていないと、追加のたびに気まずい交渉が発生します。
3案を出すときは、値段ではなく含む工程の数で分けます。値段だけが違う3案は、結局いちばん安いものが選ばれやすくなります。
内訳の分け方・除外事項の書き方・見積書に書く文例はフリーランスの単価の上げ方にまとめました。
口に出す順番:金額は最後ではなく、真ん中で言う
4つの順番だけ覚える

金額を伝えるときは、次の順番で話します。
- やることの確認(「◯◯までを、◯月◯日納品で」)
- 金額(「何万円かです」)
- その中身(内訳3行)
- 次にすること(「進めるようでしたら◯日までにご連絡ください」)
金額を最後に置くと、そのあとの沈黙を自分の言葉で埋めてしまいます。真ん中に置いて、あとに内訳と次の動きを続けると、金額だけが宙に浮きません。
言い切って、黙る
金額を言ったら3秒待ちます。相手が考えている時間を、こちらの言い訳で潰さないこと。
NG例: 「何万円かです。あ、でも内容によっては……」。この一言で、相手はまだ交渉の余地があると受け取ります。
「ご予算は?」と聞かれたときの返し
先に相手の額を聞き出そうとしないこと。範囲と条件で返します。
「内容によりますが、この規模ですと何万円か〜何万円かが多いです。決めるのに、修正回数と納期だけ先に伺えますか」
相手の額を先に聞いてそれに合わせると、以降ずっとその額が基準になります。
メールで送るときの3行
件名に金額の話だと分かるように書きます(「お見積り:◯◯サイト制作」)。本文は、やること/金額と内訳/返事のしめきり、の3つだけにします。詫びの前置きは1行も入れません。
対面と画面越しで変えること
対面や電話では、金額を言ったあと資料の該当ページを指で示しながら黙ります。画面越しの打合せでは、金額を伝えたらチャットにも同じ数字を打っておきます。文字に残しておくと、あとから「言った・言わない」にならずに済みます。
値引きを言われたとき:断るのではなく、量を減らす
金額を下げるなら、必ず中身を減らします。唯一の原則です。

文例: 「この何万円かは修正2回と納品後30日の対応を含んだ金額です。ご予算に合わせるなら、修正1回・サポートなしで何万円かという形になります。どちらがよいですか」
断っていないのに、値引きだけは起きません。相手にも選ぶ余地が残ります。応じてよいのは、まとめ発注・前払い・事例掲載など、交換条件が先に決まっているときだけです。条件を先に書面に入れてから、金額を動かします。断り方の言い回し・場面別の文例は値引きの断り方にまとめました。
受注後の減額と、支払期日にも決まりがある
受注前の交渉と、受注後に「やっぱり下げてほしい」と言われるのは別物です。フリーランス新法では、従業員を使う発注者が継続的に依頼している取引について、フリーランス側に落ち度がないのに、あらかじめ定めた報酬の額を発注後に減額することは禁止行為とされています。協賛金の名目で差し引くといった形も含めて、名目や金額の多寡は問われません。単発の依頼や、発注者に従業員がいない場合は、この規定の対象外になることがあります。
支払期日についても、この規定が及ぶ発注者には条件があり、すべての取引に一律で適用されるわけではありません。対象になる場合は、成果物を受け取った日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その期日までに支払うこととされています。見積書に支払期日を1行入れておくと、あとで催促する会話が減ります。個別の契約内容の判断は、弁護士など専門家に相談してください。
値上げの伝え方:理由はひとつ、タイミングは案件の切れ目
値上げを言うのは、進行中の案件の途中ではなく、更新月や年度替わり、次の案件の切れ目です。1〜2か月前に予告し、理由は「作業範囲が増えた」など仕事の話を1つだけ挙げます。「物価が上がって」「生活が苦しく」は、相手が判断できない理由なので、値上げがお願いになってしまいます。
全員に一斉に伝えるのではなく、直近で一番手のかかっている1社から出して反応を見ます。断られたら金額は据え置き、代わりに含む作業を減らして着地させます。断られたときにどこまで譲るかは、送る前に決めておきます。
予告文の型・そのまま送れる文例・実施日の目安は値上げの伝え方にまとめました。
金額を出したあと相手が黙ったら
黙りの理由はだいたい3つ
社内で回している、他社と比べている、予算が使える時期を待っている。高すぎて呆れられた、というのはこの3つのあとに来ることが多いです。高いと思われたのではなく、決められないだけ、ということのほうが多いと思います。
3営業日で1通、決めやすくする1文を足す
NG例: 「その後いかがでしょうか」だけの催促。相手にやることが増えるだけです。
代わりに: 「Aの内容で進めるか、時期をずらすかだけ教えてください。どちらでも構いません」。断る選択肢を自分から並べておくと、返事が返ってきます。
期限は自分の都合で言う
「いつまでですか」ではなく、「◯月の着手枠が2件空いています。◯日を過ぎると翌月になります」。急かしているのではなく、自分の予定を伝えているだけになります。
何回まで連絡していいか
3営業日で1通、を2回続けても返事がなければ、それ以上は追いません。追いかけることに時間を使うより、次の見積の枠を埋める動きに切り替えます。催促にならない例文とタイミングは見積提出後のフォローメール例文にまとめました。
今日つくる、料金メモ1枚
5行だけ書く
- 下限(これ以下は受けない額)
- 標準の金額
- 含まれるもの(修正回数まで)
- 含まれないもの(追加時の単価)
- 支払期日
A4半分に収まる量です。次に金額を聞かれたら、これを読み上げるだけにします。
読み上げるだけにすると何が変わるか
その場で考えなくなる分、金額を言うときの声が変わりやすくなります。値引きを言われても、下げるのではなく減らす行に指を置けます。交渉がうまくなる必要はありません。性格はそのままでいい、と思います。
値段の話は、対面で信頼を積み重ねるやり取りの一場面です。会う前後の振る舞い全体は対面営業の作法・人脈術 完全ガイドにまとめています。
今日やること1つ
直近で出した見積を1つ開いて、総額だけの行を内訳3行に書き直してください。送り直さなくて大丈夫です。次に使う雛形を1つ作るところまでで十分です。
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