対面営業・商談
飲食店の値上げのお知らせ例文|店頭・SNS・常連さんへの3つの文面
このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
値上げのお知らせが書けないのはなぜか
結論から言うと、値上げのお知らせは「感謝→理由→いつから→変わらないもの」の4行で書けます。この順番さえ守れば、店頭の貼り紙でもSNSでも常連さんへの一言でも、言葉選びに迷いません。ただ、この4行を書き始められない人が多いのも事実です。
券売機の値段ボタンだけ、黙って打ち直す。貼り紙は作ったのに、レジの下の引き出しにしまったまま出せない。下書きを三度も四度も書き直して、そのどれもしっくりこないまま、気づけば数か月が過ぎている。そういう店を何軒も見てきました。
言い方が思いつかないのではありません。値上げを伝えることが、「これまで安く出していた自分」を認める作業になっているから、手が止まるんだと思います。頭の中では「原価が上がったんだから当然だ」と分かっていても、いざ文字にすると、値段を決めているのは自分だという事実に向き合うことになります。
値段が言えない型かもしれません。金額を口に出すことが、自分の値打ちを口に出すことになっていて、言えなくなる型です。値上げのお知らせが書けないのではなく、この値段でやってきた自分に値上げする資格があるのかが分からない、という人が多いように思います。
先に渡しておきたい許可があります。値段は自分の価値の点数ではありません。仕事を続けるための条件です。
原価が上がれば値段が動くのは、店の都合ではなく計算です。仕入れの数字が変わったのに値段だけ据え置くほうが、むしろ帳尻の合わない話になります。
よくあるNG例が、「諸般の事情により」「苦渋の決断ではございますが」だけで理由を濁す文面です。これだと読み手には「言いにくいことなんだな」としか伝わらず、かえって気まずい空気を作ります。理由を隠すほど、読む側は勝手に大きな理由を想像します。
「値上げしたら常連さんに何と思われるだろう」という心配も、結局は同じところから来ています。値段を決める権限が自分にあることに、まだ慣れていないだけです。権限があることと、値上げしていい根拠があることは別の話で、原価が上がっていれば根拠はもう出来ています。
この記事で渡す方法は1つだけです。文面を「感謝→理由→いつから→変わらないもの」という4行の順番で組み立てること。順番さえ決めておけば、言葉選びで迷う時間がなくなります。書く順番を型にして悩みを減らすという考え方は、フリーランスのプロフィールの書き方|問い合わせにつながる3つの要素とも共通しています。次の章で、この4行を先に固めます。
値上げのお知らせの文面はどう組み立てるか
媒体が変わっても、この4行の並び順は変えません。順番を変えると、読む側が身構える箇所が変わってしまうからです。

1行目、いつも来てくれることへの礼。「いつもご利用いただきありがとうございます」で十分です。ここに理由や言い訳を混ぜないのがコツです。
2行目、何が上がったか一語で書きます。「物価高騰により」ではなく、「食材」「油」「小麦」「人手」など、扱っているものの名前で書きます。ラーメン店なら「小麦」、焼肉店なら「肉」、居酒屋なら「食材」で十分伝わります。抽象語にするほど言い訳に読まれます。
3行目、開始日と対象。「◯月◯日より、一部メニューの価格を改定いたします」。開始日は月初など切りのいい日にして、貼り出しから2〜3週間は間を空けます。当日の告知は、常連ほど「聞いてない」になります。
対象は「全品」か「一部」かをここではっきりさせます。全品なのに「一部」と書くと、後で不信の種になります。
4行目、変えないものを1つ名指しします。「量は変えません」「ランチのご飯おかわりはこれまで通りです」「盛り付けも変わりません」。この1行を落とすと、値上げの通知だけが残ってしまいます。読む側にとって、値上げの記事で一番知りたいのは実はここです。
NG例は、謝罪から入る文面です。1行目に「大変申し訳ございませんが」を置くと、読む側が「責めた側」の位置に置かれて、居心地が悪くなります。値上げは謝ることではなく、伝えることです。
そのまま使えるテンプレはこちらです。
いつもご利用いただきありがとうございます。 このたび食材価格の上昇に伴い、◯月◯日より一部メニューの価格を改定させていただきます。 量・味・接客はこれまでと変わりません。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
この後の各章は、この4行を貼り紙・SNS・口頭に着せ替えていくだけです。文言を毎回一から考えなくていいというのが、この骨組みの一番の効能です。
店頭の貼り紙には何と書けばいいか
そのまま貼れる例文です。

【価格改定のお知らせ】 いつもご来店いただきありがとうございます。 食材価格の上昇に伴い、◯月◯日より一部メニューの価格を改定いたします。 量・味・接客はこれまでと変わりません。今後ともよろしくお願いいたします。 ◯◯食堂 店主 ◯◯
日付・店名・店主名は、文面の一番下に置きます。誰が言っているかが分からない貼り紙は、他人事に読まれます。名前を出すことに抵抗があるかもしれませんが、名前のある貼り紙のほうが、結局は柔らかく読まれます。
貼る場所は入口・レジ・卓上の3か所です。入口だけだと、入店前に見た人しか知らない形になり、席についてから会計まで一度も貼り紙を見ないまま帰る常連が出ます。卓上にも小さく置いておくと、注文を待つ間に目に入ります。
貼り紙の下に、旧価格と新価格を並べた小さな表を付けます。品名・これまで・◯月◯日からの3列だけで十分です。
| 品名 | これまで | ◯月◯日から |
|---|---|---|
| ラーメン | ◯◯円 | ◯◯円 |
| 定食 | ◯◯円 | ◯◯円 |
値段だけ書き換えると、「いつの間に」と言われます。表があるだけで、隠さずに出している印象になります。品目は代表的なもの2〜3品で十分で、全品を並べる必要はありません。
貼り出す期間は、開始前の2〜3週間から、開始後1か月ほどまでを目安にします。開始後すぐ剥がすと、久しぶりに来た客に説明できません。
文字量の目安は、立ち止まらずに読める分量にすることです。上段は「◯月◯日から価格を改定します」だけにして、詳しい理由は下段に小さく添えます。上段と下段を分けるだけで、読む・読まないを客が自分で選べるようになります。
印刷の定型文だけで済ませるより、店主の手書きで一行添えたほうが伝わることが多いです。個人店であれば、なおさらです。「いつもありがとうございます」の一言を手書きで足すだけでも、印象は変わります。
SNSでの値上げ告知はどう書けばいいか
同じ内容でも、媒体によって長さと順番を変えます。Instagramは画像とキャプションに分けて理由を補い、Xは短く要点だけ、LINE公式は常連向けに一番長く書けます。

Instagram用の画像テキストです。
いつもありがとうございます。 ◯月◯日より一部メニューの価格を改定いたします。 量・味・接客はそのままです。
キャプション例です。
いつもご利用いただき、ありがとうございます。食材価格の上昇に伴い、◯月◯日より一部メニューの価格を改定させていただきます。量やボリュームはこれまで通りです。今後ともよろしくお願いいたします。
Xは全角140字以内にまとめ、冒頭に開始日を置きます。タイムラインでは1行目しか読まれないからです。
【価格改定のお知らせ】◯月◯日より、一部メニューの価格を改定します。食材価格の上昇によるもので、量・味・接客は変わりません。いつもありがとうございます。
LINE公式アカウントは、配信を開始の2週間前と前日の2回に分けます。1回だけだと、未読のまま当日を迎える人が出ます。2週間前は理由と日付を丁寧に、前日はリマインドとして「明日から価格を改定します」の一言だけで十分です。
コメントやリプライへの返し方も決めておきます。応援コメントには「ありがとうございます」とそのまま返す。値段への不満には反論せず「仕入れが上がっている分、価格に反映させていただきました」とだけ返す。質問には「◯◯についてはこれまで通りです」と事実で答える。
返信をためらって数日空けるより、短くてもすぐ返すほうが印象は良くなります。SNSでの短い言葉の選び方は、SNSでつながるときの申請とひとことメッセージも参考になります。
Instagramはフィード投稿だけでなく、ストーリーズでも同じ画像を流しておくと、フィードを見ない層にも届きます。フィードは残る告知、ストーリーズはリマインドと役割を分けて考えるとやりやすいです。
NG例は、値上げの告知に他の宣伝を混ぜることです。「新メニューも出ました!」を同じ投稿に入れると、どちらの話も薄まります。告知は1本で完結させます。
常連さんには何と伝えればいいか
週に何度も来る顔ぶれには、貼り出しの前に直接ひと言伝えます。順番を逆にすると、「貼り紙で知った」という距離ができてしまいます。自分が一番大事にしている相手にこそ、一番先に伝えるという順番です。
会計時に、立ったまま言える一言です。
実は来月から、食材の値段が上がった分だけ価格を見直すことになりました。量や味は変わりませんので、これからもよろしくお願いします。
理由は一語だけにします。長く説明するほど、言い訳に聞こえます。相手が「大変だね」と気を遣ってくれても、そこで経営状況を詳しく話し込む必要はありません。
終わり方は「すみません」ではなく「これからもよろしくお願いします」にします。謝罪で終わると、相手が返す言葉に困ります。日頃の信頼の積み重ねで関係が続くという考え方は、「営業しないで仕事を取る」はできるのか|紹介で回っている人が実際にやっていることとも通じます。
「しょうがないよ」と言ってもらえたときは、そのまま「ありがとうございます、助かります」で受け取ります。ここで「◯◯さんだけは今まで通りで」と例外を作らないほうがいいです。例外を作ると、本人がかえって来づらくなりますし、他の客に知られたときに説明できなくなります。敬意は、値段を下げることではなく、先に伝える順番で示します。
団体予約や法人の常連は、個人客と別扱いにしてよい場面です。すでに口約束している価格がある場合は、その相手だけ開始日を1か月ずらす判断もあります。
一番後に響くのは、値上げの話を切り出せないまま会計だけ変えてしまうことです。金額が変わった瞬間に無言で気づかれるほうが、伝えるより気まずくなります。
値段や条件を自分の言葉で先に伝える姿勢は、対面営業の作法の基本でもあります。伝える言葉選びをもう一段掘り下げたい人は、値上げの伝え方も参考にしてください。
値上げのお知らせで書いてはいけないことは何か
書かない①:同業や仕入れ先を悪者にする書き方。「業者からの一方的な値上げにより」という表現は、読む人との関係とは無関係な相手を巻き込みます。
書かない②:数字のない苦しさの強調。「経営が非常に厳しく」だけで押すと、その場は同情されても、次の値上げが言えなくなります。一度深刻さで押した店は、二度目にもっと深刻な理由を用意しなければならなくなります。
書かない③:値上げ幅の全品リスト。「ラーメン◯円→◯円、餃子◯円→◯円、チャーハン◯円→◯円…」と全メニュー分を並べると、値上げの多さだけが印象に残ります。代表的な品を数点挙げて、「その他一部メニュー」でまとめたほうが読みやすくなります。
書かない④:「今後このような改定はいたしません」という約束。守れない約束を書くと、次の値上げが言えなくなります。原価がどう動くかは、店側にも分かりません。
書かない⑤:値上げと同時に量や質を変えることを黙っておくこと。値段は据え置きの体でご飯の量だけ減らす、といったやり方です。減らすなら同じ紙に書きます。後から気づかれるほうが、先に言うより痛手になります。
逆に、必ず書くものは3つです。開始日・対象・変えないもの。この3つが抜けた文面は、問い合わせが増えます。
値上げ後は何を見て、何と答えればいいか
見る数字は3つだけです。客数、1人あたりの単価、常連の来店間隔です。この3つ以外は、いったん見なくていいと決めてしまうほうが気持ちが楽になります。

値上げ直後は客足が動くことがあります。1週間で判断せず、最低4週間は見てから判断します。単価が上がった分を客数の減りが埋めていれば、売上そのものは落ちていないことも多いです。4週間たっても客数が落ちず、単価が上がっていれば、値上げが受け入れられたという判断材料になります。単価が上がっていない場合は、客が安いメニューに流れている可能性を疑います。
「高くなったね」と言われたときの返しは、3パターン用意しておきます。仕入れの一語と変えないものを添える。黙って笑う。「それでも来てくださって助かります」と受け取る。
どれも反論はしません。反論せずに受け止める間合いは、雑談力の鍛え方|商談前のアイスブレイクネタ集にも通じる技術です。
貼り紙を見た人からよく聞かれる質問は、あらかじめ想定問答にしておきます。「いつからですか」「全部上がるんですか」「量は減るんですか」の3つが多い質問です。スタッフ全員が同じ答えを言えるようにしておくことが大事です。答えがスタッフごとにばらつくほうが、値上げそのものより不信を生みます。
次の値上げのために、今回の文面・貼り出した日・お客さんの反応を1枚のメモに残しておきます。使った文面、貼り出した日と剥がした日、常連の反応、聞かれた質問と答え、この4項目だけで十分です。毎回いちから考えなくて済むようにするためです。
値上げのあとに来なくなった人がいても、それは腕や味の評価ではありません。値段は条件であって、点数ではない。最初に渡した許可に、ここでもう一度戻ってきます。
よくある質問
値上げのお知らせは何日前に出せばいいですか
貼り出しは開始の2〜3週間前が目安です。常連さんには、貼り出しよりさらに前に口頭で伝えます。当日の告知は常連ほど「聞いてない」になりやすいです。
値上げの理由はどこまで正直に書くべきですか
「物価高騰」ではなく、上がったものの名前を一語で書きます(仕入れ・油・人手など)。数字のない苦しさの強調や、仕入れ先を悪者にする書き方は避けます。
値上げのお知らせで謝罪の言葉は必要ですか
謝罪から始めないほうがいいです。1行目は感謝、最後は「これからもよろしくお願いします」で締めます。謝ると読む側が責めた側の位置に置かれて気まずくなります。
常連さんだけ以前の値段のままにしてもいいですか
例外は作らないほうがいいです。本人がかえって来づらくなり、他の客に知られたときにも説明できなくなります。伝える順番を先にすることで敬意は示せます。
値上げ後にお客さんが減ったらどうすればいいですか
1週間で判断せず、最低4週間は見ます。見るのは客数・1人あたり単価・常連の来店間隔の3つです。単価の上昇分を客数の減りが埋めていれば、売上は落ちていないことも多いです。
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