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このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
ヒアリングが苦手な人がつまずいているのは、話す力より「聞く順番」
先に答えを書きます。次の質問は、相手の答えの中に出てきた一語を拾って聞き返せば作れます。質問を自分の頭で探す必要はありません。
打ち合わせで相手が話し終わったとき、次に何を聞けばいいか分からなくなる。沈黙が来て、あわてて自分の説明を始めてしまう。帰り道に「自分は口下手だから、人から話を引き出すのは向いていない」と思う。そう感じている人は多いと見ています。
私は、この見立てを少し違う角度から見ています。多くの場合、足りなかったのは話す力そのものより、何をどの順で聞くかを習う機会です。デザイナーも、カメラマンも、施術者も、職人も、会社では「作る側」でした。お客さんの話を聞いて仕事に変える手順は、誰からも教わらないまま独立した人が多いと見ています。腕があることと、聞き方を知っていることは、別の技術です。後者は型をひとつ覚えれば動かせます。
この記事は、店主や小さな会社の社長と1対1で話す場面を想定して書いています。営業部の会社員向けの聞き方(決裁者や予算を聞き出す話)は扱いません。
質問が続かないとき、頭の中で起きていること
Web制作の打ち合わせを例にします。店主が「最近お客さんが減ってて」と言いました。

このとき頭の中では、用意してきた質問メモが開いています。メモの次の項目は「ご予算」。店主の話が終わるのを待って、「ご予算はどのくらいをお考えですか」と返してしまう。
店主は「お客さんが減ってる」という悩みを話したのに、返ってきたのは予算の質問です。この瞬間、会話は止まります。
相手が答えている間、頭の中では「次は何を聞こう」と探しています。探している間は、答えの中身がほとんど耳に入っていません。質問が続かないのは、聞く力が弱いからではなく、聞く前に次の質問を探してしまうからだと私は見ています。
沈黙を自分の説明で埋めてしまう
質問のあとに相手が少し考え込むと、沈黙が怖くなります。そこで「あ、たとえば、うちでは去年こういうサイトを作りまして」「作業はこういう流れで進めていまして」と、自分の実績や作業の説明を話し始める。相手に話してもらうはずの時間が、気づけば自分の説明で埋まっています。
帰ってから振り返ると、相手の事情はほとんど聞けておらず、自分ばかり話していた。そういう打ち合わせに心当たりがある人もいるのではないでしょうか。私はこれを「しゃべりすぎ型」と呼んでいます。
口下手だから起きているのではありません。沈黙の間に何を聞けばいいか、何を言えばいいかを習っていないので、手元にある自分の話で埋めているだけです。次の節から、その手元に別の道具を渡します。
必要なのは話のうまさより、返し方の型がひとつあること
話がうまくなる必要はありません。声の大きさも、場の盛り上げ方も、雑談の引き出しも要りません。相手の言った言葉をそのまま口に出して、少し足すだけです。性格はそのままでかまいません。静かな人は静かなまま、この方法を使えます。
営業全体の流れの中でヒアリングがどこに入るかは、フリーランスの営業の進め方にまとめています。この記事では、そのうち「話を聞く」部分だけを掘り下げます。
質問を用意するほど会話が切れる理由
「ヒアリングが苦手なら、質問を事前にたくさん用意しておこう」という助言をよく見かけます。私の見方では、これは逆に働くことがあります。質問を用意するほど、頭が「次の質問」に向いて、相手の答えが耳に入らなくなるからです。
質問リストを読み上げると尋問になる
質問リストを順番に読み上げた会話を、そのまま書きます。
- こちら「ご予算はどのくらいをお考えですか」
- 相手「まだ決めてないんですけど……」
- こちら「納期はいつ頃をご希望ですか」
- 相手「できれば早めに、ですかね」
- こちら「ほかにも相談している会社はありますか」
- 相手「いえ、特には……」
- こちら「では、お仕事の内容を教えてください」
質問は全部、正しい内容です。ただ、相手が何を言ったかには一度も触れていません。会話はつながらず、答える側は取り調べを受けているように感じます。
相手の側から見るとどう見えるか
受け手の目線で見ます。自分の言ったことに触れずに、次の質問へ進まれる。これが続くと、相手は「聞いてもらえていない」と感じやすくなります。そうなると、答えは短くなります。「まだ決めてないんですけど」「早めに」「特には」のように、続きの言葉が出てきません。
答えが短いと、そこから広げる材料がなく、また次の質問を探すことになる。質問が続かない原因は、こちらの質問の数よりも、相手の答えが短くなっていることにあると私は見ています。この悪循環が「質問が続かない」の正体ではないでしょうか。
次の質問は、相手の答えの中にある
相手の答えには、まだ説明されていない言葉が残っていることがほとんどです。
- 「最近お客さんが減ってて」の 減ってて(いつから?どのくらい?)
- 「なんとなく困ってて」の なんとなく(何が引っかかっている?)
- 「前の業者さんが」の 前の業者さん(どうなった?何があった?)
そこを拾えば、次の質問を探さなくて済みます。相手が出した言葉を使うので、話に触れずに次へ進むことにもなりません。
話を広げる返し方:相手の言葉を一語拾って聞き返す
ここから、方法をひとつだけ渡します。ほかの方法は並べません。
手順は3つだけ
- 相手の答えの中で、気になった一語をメモする
- その語を、そのまま口に出す
- 「たとえば?」「いつ頃からですか」「それはどういう意味ですか」のどれかを足す

一語は、短いほどいいです。文章をまるごと覚えようとすると、また頭の中が忙しくなります。「減ってて」「前の業者さん」「なんとなく」のように、単語ひとつで十分です。
会話例:一語拾いあり/なしの比較
カメラマンが、飲食店のオーナーと話している場面です。同じ入り口から始めて、返し方だけを変えます。
| 拾わない会話 | 拾う会話 | |
|---|---|---|
| オーナー | 最近お客さんが減ってて | 最近お客さんが減ってて |
| カメラマン | 今のメニュー写真は、いつ撮られたものですか | 減ってて、というのはいつ頃からですか |
| オーナー | えーと、開店のときですね | 去年の春くらいからですね |
| カメラマン | ホームページにも載せていますか | 春に何か変わったことはありましたか |
| オーナー | 一応載せてます | 近くに大きいチェーン店ができたんです |
左は、自分が用意した質問(写真)に引っ張っています。右は、相手の「減ってて」から入って、相手自身が「近くに大きいチェーン店ができた」という本当の事情を話し始めました。写真を撮る仕事の話は、この事情を聞いてからで間に合います。
右のやりとりでは、カメラマンは「減ってて」と「春」の二語を拾っただけです。うまいことは何も言っていません。
そのまま使える返し言葉の表
メモに書いて持っていける形にしました。
| 返し言葉 | 使う場面 |
|---|---|
| 「たとえば?」 | 「いろいろあって」「ちょっと難しくて」など、ふわっとした言葉が出たとき |
| 「いつ頃からですか」 | 「減ってて」「忙しくて」など、変化を表す言葉が出たとき |
| 「それで、どうなりました?」 | 相手が出来事を話して、そこで止まったとき |
| 「◯◯というのは?」 | 業界用語や、相手独特の言い方が出たとき(◯◯には拾った一語が入る) |
| 「一番困っているのはどこですか」 | 悩みがいくつも出てきて、絞りたいとき |
「◯◯というのは?」は、知らない言葉が出たときほど使いやすいです。分かったふりをして進めるより、聞き返したほうが、相手も丁寧に説明してくれる場面が多いと感じています。
広げた話をどこへ向けるか:いま→困りごと→理想→いつまで
一語を拾って広げていくと、話が広がりすぎて「結局、何を聞けたのか」と迷うことがあります。そこで、拾った話をどこに置くかの地図を持っておきます。
拾う一語を選ぶ目印として、4つの箱を持っておく
紙の上に、次の4つの箱を描いておきます。

| 箱 | 中身 |
|---|---|
| ① いま | 今どうしているか(やり方・担当・使っているもの) |
| ② 困りごと | 何に困っているか、何がうまくいっていないか |
| ③ 理想 | どうなったらいいか |
| ④ いつまで | いつまでに、どのくらいの規模で(期限・予算) |
これは質問を並べたリストではありません。相手が話したことを「どの箱に入れるか」を考えるための地図です。「近くに大きいチェーン店ができた」は②の箱。「新規の予約をもう少し増やしたい」は③の箱。空いている箱があれば、そこに向かう一語を次に拾います。
箱ごとの聞き方の例と、やりがちなNG
| 箱 | 聞き方の例 |
|---|---|
| ① いま | 「いまはどうやって集客されていますか」「いまはどなたが担当されていますか」 |
| ② 困りごと | 「そのやり方で、困っているのはどこですか」 |
| ③ 理想 | 「理想は、どんな状態ですか」 |
| ④ いつまで | 「いつ頃までに形にしたいというお考えはありますか」 |
やりがちなNGは、最初から④(予算・期限)を聞くことです。まだ事情が分からないうちにお金の話をされると、相手は身構えます。①から順に入るのが基本ですが、相手が先に③や④を話し始めたら、その流れに合わせて大丈夫です。
箱が埋まらなくてもその日は終わってよい
4つ全部が埋まらなくても、打ち合わせは失敗ではありません。むしろ、聞き残しがあるほうが、次に会う理由が残ります。終わりぎわに、次のような一言を添えます。
「今日のお話をもとに、次回もう少し具体的なところを伺ってもいいですか」
「今日で全部聞き切らなければ」と思うと、質問が増えて尋問に戻ります。1回で終わらせる必要はありません。
説明から始めてしまう人の、最初の5分の組み立て
自己紹介と実績の説明は一言二言で切り上げる
NG例を書きます。席に着くなり、資料を開いて「まず私の経歴ですが」と話し始める。過去の制作物を順に見せて、「こういう実績があります」と説明する。しばらくすると、相手が「はあ」と相づちを打つだけになっている。
腕を分かってもらいたい気持ちは自然です。ただ、最初に説明すると、相手は聞く側に回ります。聞く側に回った相手は、自分の事情を話す気分になりにくいものです。自己紹介は、名前と仕事の一言二言で切り上げて構いません。
最初の一問は、相手がすぐ答えられる「いま」の話にする
最初の一問は、考えなくても答えられるものにします。
- 「今日は、どんなきっかけでお声がけいただいたんですか」
- 「いまは、どなたが担当されていますか」
逆に、最初に置かないほうがいいのは「課題は何ですか」のような質問です。答えるために考えなければならず、沈黙が生まれます。答えやすい「いま」の話で口を開いてもらい、そこから一語を拾っていくほうが流れに乗れます。
説明が必要になったら、相手の話に答える形で出す
説明をまったくしない、という意味ではありません。相手が困りごとを話したあとなら、実績は短く出して大丈夫です。
「それなら、前にこういう形でやったことがあります。ご興味があれば、あとで詳しくお見せします」
このように、相手の話を受けて、一言で出して、続きは相手に決めてもらいます。実績は、相手の話につなげたときにはじめて伝わります。
沈黙が来たときに、説明で埋めないための一言
沈黙は、相手が考えている時間

質問のあとに相手が黙ると、焦って言い換えたり補足したりしがちです。「つまり、こういうことなんですが」と質問を言い直すと、相手が考えている途中だった答えが消えてしまいます。
待つための工夫をひとつ書きます。質問したら、心の中でゆっくり数を数えます。数えている間は、口を開けない。それだけで、焦って説明で埋める回数が減ります。数える間、相手の表情や視線がどこへ向いているかを見ておくと、あとで拾う一語が見つかることもあります。
待つのがつらいときの一言
どうしても待つのがつらいときは、説明で埋める代わりに、次の言葉を使います。
- 「ゆっくりで大丈夫です」
- 「思いつくところからで構いません」
相手に「急がなくていい」と伝わるので、沈黙の気まずさも和らぎやすくなります。自分の話に逃げずに済む、安全な言い方です。
話が止まったら、要約して返す
相手の話が止まったときは、ここまでを相手の言葉で短くまとめて返します。
「ここまでだと、春からお客さんが減って、紹介も減っている、ということですね」
要約は、自分の言葉に直さず、相手が使った言葉をそのまま並べるのがコツです。相手が「そうなんです、あとは……」と付け足してくれることが多いと感じています(あくまで私の実感です)。要約が少し違っていても、相手が直してくれるので、そこからまた話が広がります。
今日から使える、ヒアリング前・最中・後のチェックリスト
会う前:質問リストではなく、4つの箱とメモの欄を用意する
- 紙を1枚用意して、4つに区切った(いま/困りごと/理想/いつまで)
- 各箱の下に、相手の言葉を書く余白を残した
- 最初の一問を「いま」の話で決めておいた(例:「どんなきっかけでお声がけいただいたんですか」)
- 自己紹介を一言二言に絞った
打ち合わせ中:自分が話しすぎていないかの目安
- 相手の言葉を、そのままメモしたか
- 説明を始める前に、一度聞き返したか
- 沈黙を、自分の話で埋めなかったか
- 次の質問を考える前に、相手の答えを最後まで聞いたか
ひとつでもチェックが外れたら、その場で責める必要はありません。「いま少し説明が長くなりました。〇〇さんの場合は、どうですか」と、相手に話を戻せば大丈夫です。
終わったあと:振り返りの3問
- 相手が一番長く話したのは、どの話題だったか
- 拾えなかった一語は、どれだったか
- 次に聞くことは、何か
この3つは、次の打ち合わせや連絡のネタにもなります。「先日の〇〇のお話、もう少し聞かせていただけますか」と送れば、自然に次の接点が生まれます。
今日やれることは、ひとつです。次の打ち合わせで、一語拾いを1回だけやってみてください。全部を変える必要はありません。1回拾って聞き返せたら、それで十分です。
よくある質問
ヒアリングで何を聞けばいいかわからないときはどうすればいいですか?
質問を並べて用意するより、「いま・困りごと・理想・いつまで」の4つの箱だけ持って行き、相手の答えから一語を拾って聞き返してください。最初の一問は答えやすい「いま」の話にすると、会話に入りやすくなります。
ヒアリングが質問攻めになってしまいます。どうしたら防げますか?
次の質問へ進む前に、相手の言葉を一語そのまま繰り返して「たとえば?」と足します。話に触れてから深めるので、尋問のように感じさせにくくなります。
口下手でもヒアリングはできますか?
できると考えています。ヒアリングで必要なのは話す力より、聞き返す順番と返し言葉です。相手の言葉を使って返すので、うまく話す必要はありません。
ヒアリング中の沈黙が気まずいときはどうすればいいですか?
沈黙は相手が考えている時間なので、説明で埋めずに待ちます。つらいときは「ゆっくりで大丈夫です」と一言添えるか、ここまでの話を相手の言葉で短くまとめて返してください。
ヒアリングシートは使ったほうがいいですか?
上から順に読み上げる使い方は会話を切りやすいです。聞き漏れを確かめる目安として手元に置き、会話は相手の答えから広げるほうが話が続きます。
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