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このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか

「決め手に欠ける」は、値段が高いという意味とは限らない

見積を出して数日後、メールが届きます。「検討しましたが、今回は決め手に欠けまして…」。あるいは打ち合わせの終わりに、相手が腕を組んで「うーん、決め手がね」と言う。

その瞬間に胸の奥が冷えて、返事を打つ手が止まった人は多いと思います。

言われた瞬間に頭の中で起きていること

多くの人はここで、「やっぱり高かったんだ」と受け取ります。さらに一歩進んで、「自分の仕事に、この金額の価値はないと思われた」と、自分の値打ちの話にしてしまう人もいるようです。これは私の見方で、全員がそうだとは言えません。ただ、短い一言で返ってくる断りほど、そこに自分への評価を全部読み込みやすいと私は見ています。

ここで一度、言われた言葉をそのまま読み直してみます。

言葉どおりに読むと、足りないのは「選ぶ理由」

「決め手に欠ける」は、ほかと比べたときに、これにすると決める理由がもう一つ足りない、という意味合いで使う人が多い言葉だと私は受け取っています。

この言葉の中に、安いとも高いとも入っていません。値段が理由なら、「予算が合わなくて」「もう少し安ければ」と言う人が多いはずです。相手が口にしたのは、値段が足りないという話ではなく、選ぶ理由が足りないという話です。

相手はまだ迷っている途中にいる

はっきり断るなら、「今回は見送ります」で済みます。そこを「決め手」という言葉にするのは、まだ比べている途中のときが多いと、私は見ています。事実として確かめた数字があるわけではなく、私の見方です。

「決め手に欠ける」は値段でなく選ぶ理由の不足

高いと思われたのではなく、決められないだけかもしれません。そうだとすれば、まだ動かせる余地があります。

言われた直後にやりがちな2つの返し方と、その先で起きること

言われた直後は、気まずさを早く消したくなります。そこで出やすい返し方が2つあります。

すぐ値段を下げる

たとえば、こんな返事です。

  • 「でしたら少しお勉強させていただきます」
  • 「金額はご相談ください」

その場の空気は和らぎます。ただ、下げた金額は、この相手との次からの基準になりやすくなります。次の見積で元の額に戻すのは、最初に出すときよりずっと言いにくくなります。

もう一つ、足りなかったのが値段以外だった場合です。任せて大丈夫か、納期に間に合うか、といった不安が残っていれば、下げても迷いは消えません。安くなったことで、かえって「大丈夫かな」と感じる人もいます。

「ご検討ください」と引き下がって待つ

こちらは、こんな返事です。

  • 「承知しました。またご検討いただければ幸いです」

礼儀正しい返事です。ただ、そこから先に自分がやることが決まっていません。あとは相手が決めるのを待つだけになります。

見積を出したあとに自分が何をするかを習っていないので、相手の番になったところで手が止まる。私はこれを『相手の番型』と呼んでいます。

2つに共通しているのは「聞いていない」こと

下げるのも、待つのも、相手が何に迷っているかを確かめないまま決めています。腕が足りないからでも、値段が高いからでもありません。確かめる順番を、誰からも教わっていないだけです。

下げる・待つ・先に聞くの3つの動きの比較

3つ目の動きとして「先に聞く」があります。3つを並べると、違いがはっきりします。

すぐ下げる待つ先に聞く
その場の気まずさすぐ消える残ったまま一瞬あるが、質問に変わる
次からの単価下がった額が基準になりやすい変わらない変わらない
相手の迷いが解けるか値段以外の迷いは残る相手任せで、解けるか分からない迷いの場所が分かるので、解ける形に近づく

値段を下げる前に聞く、ひと言

渡す方法は1つだけです。どこで迷っているかを聞く。値段の話は、そのあとにします。

そのまま使える最初のひと言

率直に教えていただきありがとうございます。差し支えなければ、どのあたりで迷われているか教えていただけますか。

順番は、お礼が先、質問は1つだけ。お礼を先に置くと、相手は「言って良かった」と感じやすくなると私は見ています。質問を2つ3つ重ねると、答える側の負担が増えて、返事が遠のきます。

答えにくそうなときの聞き方

「どのあたりで」と開いた聞き方は、答えを自分で組み立てる必要があります。そこで、選べる形にします。

金額の面でしょうか。それとも、中身が合うかどうか、進め方のほうでしょうか。

相手は、選ぶだけで答えられます。「どれでもない」と返ってきたら、それもひとつの情報です。

言ってはいけない聞き方

同じ「聞く」でも、言い方で意味が変わります。

  • 「何がダメでしたか」:責めているように聞こえます。相手は理由を言うより、角を立てない言葉を探し始めます
  • 「他社さんはいくらでしたか」:値段の勝負に、自分から入ってしまいます
  • 「どうすれば決めていただけますか」:押しが強く聞こえます。相手は決めさせられる側に回った気がして、身構えます

迷っているところ別の返し方(早見表)

聞いたあとに、答えが返ってきます。迷いの場所によって、渡すものが変わります。持ち帰り用に、表にまとめました。

迷いの場所5つと、それぞれの返し方の対応図

迷っているところ相手が言いそうな言葉返し方やってはいけないこと
値段「もう少し抑えられれば」中身を分けて、幅を小さくした案を出す総額だけ下げる
中身が合うか「思っていたのと少し違って」どこが違うかを1つ聞き、その部分を直した案を出す全部を作り直す
任せて大丈夫か「初めてなので不安で」進め方と確認の回数・時期を先に決めて見せる実績をたくさん並べる
時期「今すぐは動けなくて」動き出せる時期を聞き、その頃に連絡してよいか確かめる急かす
ほかの人に説明しにくい「家族や共同経営者に話せなくて」そのまま見せられる短いまとめを渡す資料を増やす

値段で迷っているとき:金額ではなく、やることの幅を変える

値段が理由だと分かったときも、総額を下げる前にできることがあります。中身を分けて、「ここまでならこの金額」と、幅を小さくした案を出す方法です。

たとえば、撮影とレタッチを分けて見積もり直します。「撮影だけなら、この金額です。レタッチは、必要になったときに追加でお受けします」。単価は変えずに、相手が払う総額だけが小さくなります。

「任せて大丈夫か」で迷っているとき

不安が理由のときは、実績を並べても届きにくいと私は見ています。相手が知りたいのは、自分の仕事がどう進むかです。

  • 似た仕事の進め方を見せる
  • 途中で確認する回数と時期を、先に決めて伝える
  • 最初の一部だけを頼める形にする

不安は1つずつ違います。相手の不安に1つ答える、という気持ちで準備します。

相手がほかの人に説明しにくいとき

共同経営者や家族、社内の人に見せる場面で、相手が説明に困っていることがあります。その場合は、そのまま見せられる短いまとめを渡します。

何が変わるか:納品後、商品ページを自分で差し替えられるようになります いくらか:◯◯円(税込) いつまでか:◯月◯日

3行で足ります。稟議や決裁といった、大きな会社向けの言葉は使いません。

メールで「決め手に欠ける」と届いたときの返信例文

メールで届いた場合は、返事を考える時間があります。その分、先に型を決めておくと迷いません。

そのまま使える返信例文(1通目)

件名:Re: お見積りの件

◯◯様

お忙しいなか、ご検討いただきありがとうございます。率直にお知らせいただき、助かります。

差し支えなければ、どのあたりで迷われているか教えていただけますでしょうか。 金額の面か、内容が合うかどうか、進め方のほうか、おおまかな方向だけでも構いません。 一言のお返事で結構です。

どうぞよろしくお願いいたします。

返信メール1通目の組み立て4ステップの流れ

組み立ては、お礼、迷っているところを1つ聞く、選べる形、返事の負担を軽くする一文、の順です。値引きの言葉は入れません。

返事が来ないときの2通目

1通目から日を決めて送ります。日数は目安の数字ではなく私の例です。たとえば4日後に送る、と決めておきます。

◯◯様

先日の件、お忙しいところ失礼します。 もし今回は見送りということでしたら、それだけお知らせいただければ大丈夫です。 引き続き検討中でしたら、そのままお待ちしています。

断りやすい形にすると、返事が来やすくなる、というのが私の考え方です。返事をするのが負担なのは、断ることの重さから来ていることが多いと見ています。重さを下げると、答えが戻ってきやすくなります。

入れないほうがいい一文

  • 「ご予算に合わせて調整いたします」:値段の話だと決めつけて、値引きの扉を自分から開けています。相手の迷いが別の場所にあっても、聞く機会を失います
  • 「いつでもお待ちしております」:優しい言葉に見えますが、いつ動けばいいか分からず、後回しになりやすい一文です
  • 「ご期待に沿えず申し訳ありません」:まだ断られていないのに、先に謝っています。相手は断っていいのだと受け取りやすく、話が閉じやすくなります

聞いても決まらなかったときの終わり方

聞いても、決まらないことはあります。そのときの終わり方を決めておくと、気持ちが楽になります。

見送りになったら、理由を1つだけ聞いて終える

承知しました。今後のために、一番の理由だけ伺ってもよいでしょうか。

理由を集めるのは、次の見積のためです。言い返すためではありません。返ってきた理由には反論せず、「ありがとうございます。参考にします」で終えます。

次につなぐひと言

次に同じようなことを考えられるのは、いつ頃になりそうですか。

時期を聞き、その頃に一度連絡してよいか確かめます。断られても、そこで終わりにしません。仕事の取り方の全体像は、フリーランスの営業のしかたにまとめています。

値段を守ったことを損だと思わない

値段を下げずに終わった1件は、単価を崩さなかった1件でもあります。決まらなかったことだけを見ると、損をしたように感じます。ただ、次の見積を同じ額で出せる状態が残っているのは、後から効いてくると私は考えています。

次の見積から「決め手」を先に渡しておく

言われてから動くより、言われる前に渡しておくほうが、気持ちの負担は軽くなります。

見積に「この仕事で変わること」を1行添える

金額の横に、選ぶ理由を置いておきます。

納品後、商品ページをご自身で差し替えられる状態にします。

作業の一覧だけでは、相手は「何が手に入るか」を自分で想像しなくてはいけません。1行あるだけで、比べるときの軸が増えます。

提案の最後に、迷いどころを先に聞いておく

ほかと比べて迷われそうなところは、ありますか。

決め手に欠けると言われる前に、その場で答えられます。この質問は、最初のひと言と同じで、1つだけ聞きます。

今日やること

いま返事を待っている見積を1件選んで、「値段を下げる前に聞く、ひと言」の節で書いた最初のひと言を、そのまま送ってみてください。

差し支えなければ、どのあたりで迷われているか教えていただけますか。

値段にはまだ触れません。まず、どこで迷っているかを知るところから始めます。

個別の契約や取引条件の判断が必要になった場合は、専門家への相談をおすすめします。

よくある質問

「決め手に欠ける」はビジネスでは断りの意味ですか?

はっきり断るなら「今回は見送ります」で済むので、比べている途中で使われることが多い、とやたは見ています。断りかどうかを決めつけず、どこで迷っているかを1つ聞いて確かめます。

「決め手に欠ける」と言われたら値引きしたほうがいいですか?

下げる前に、迷っているのが値段かどうかを確かめます。値段以外の迷いなら、下げても決まらないうえに単価だけが下がります。値段が理由でも、総額を下げるのではなく、やることの幅を小さくした案を出します。

「決め手に欠ける」とメールで来たら、どう返信すればいいですか?

お礼を言ってから、迷っているところを1つだけ聞きます。「金額の面か、中身が合うかどうか、進め方か」と選べる形にして、一言で返せるようにします。値引きの言葉は入れません。

理由を聞くのはしつこいと思われませんか?

聞くのは1回、質問は1つにします。「何がダメでしたか」ではなく「どのあたりで迷われているか」と聞けば、責めているようには聞こえにくくなります。見送りになったら、一番の理由だけ聞いて終えます。

聞いても決まらなかったら、その相手とは終わりですか?

次に検討する時期を聞き、その頃に連絡してよいか確かめておきます。今回の理由は、次の見積で先に答えておくために使います。

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