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このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
単価は、かかる時間から下限を出し、相場で位置を確かめる順に決める
結論から言うと、単価は「かかる時間と経費から下限を出す → 相場で自分の位置を確かめる → 金額と範囲をセットで言える形にする」の順で決めます。相場の料金表を見て回ることから始めると、迷いが増えます。
初めての相手から「おいくらくらいになりますか」と聞かれ、「見積を出して、あらためてご連絡します」と答えて持ち帰る。その夜、同じ仕事をしている人の料金表をひとつずつ開いて見て回る。安い人もいれば、驚くほど高い人もいる。1時間見ても、自分の数字は決まらない。
こういう夜を過ごした人は、少なくないと思います。
値段が決まらないとき、「高く付けて、その程度の腕で、と思われたらどうしよう」「自分にはまだ、ちゃんとした値段を付ける資格がない気がする」と考える人がいます。これは仮説ですが、腕の話と値段の話が同じ箱に入っていて、値段を口にすることが自分の点数を発表することのように感じられている、と私は見ています。
値段が決められない理由は、腕に自信がないことだけとは限りません。値段を何から出すか、その順番を教わっていないことも大きいと思います。会社に勤めていたころ、値段は誰かが決めたものだった人は多いはずです。独立した途端、順番を知らないまま、いきなり数字だけを自分で決める役になります。
値段は、腕の点数ではありません。その仕事を、どの条件で受けるかという話です。この記事では、その条件を自分の時間と生活から出して、口に出せる形にするところまでを順番に進めます。
検索して相場を見るほど迷う理由
料金表を見て回るほど、迷いは増えがちです。安い人にも高い人にも、それぞれの事情があるからです。安い人に合わせると、自分の仕事はその値段の価値だと認めたような気持ちになる。高い人に合わせると、背伸びをしているような気持ちになる。どれに合わせても、自分の値打ちを決めたことになってしまいます。
そもそも、相場から決めると順番が逆になります。相場は、他の人がそれぞれの事情で付けた値段の集まりです。自分の暮らしに必要な金額や、1件にかかる時間は、どの料金表にも載っていません。
単価を出す順番は3つ
| 順番 | やること | 出てくるもの |
|---|---|---|
| ① | かかる時間と経費から下限を出す | これより下では受けない線 |
| ② | 相場で自分の位置を確かめる | 下限が相場のどこにあるか |
| ③ | 最初の値段を決めて、言える形にする | 金額と範囲をセットにした一文 |
この3行を、ノートの端か画面のメモに写しておいてください。以降の章は、この表の順に進みます。
この記事でやらないこと
「時給いくらが正解」という金額は示しません。仕事の種類も、暮らしにかかる費用も、人によって違うからです。数字は、自分の暮らしと仕事の中身から出すものです。この記事は、その数字を出す順番と、出した数字を口にするときの言い方を渡すものとして読んでください。
手順1:1件にかかる時間を、作業以外まで含めて書き出す
単価の計算で抜けやすいのは、手を動かしている時間以外の時間です。まず、1件の仕事に何の時間がかかっているかを、全部並べるところから始めます。
見積で抜けやすい時間のチェックリスト
直近の仕事を思い出しながら、次の9項目に時間が発生していたかを確かめてください。
- 最初の打ち合わせ(日程調整の連絡も含む)
- 下調べ(相手の会社や業界、渡された資料の読み込み)
- 見積書や提案書を作る時間
- 作業そのもの
- 修正対応
- メールやチャットのやりとり
- 移動
- 納品後の確認や問い合わせへの対応
- 請求書づくりと入金の確認
見積に入れるのは、作業そのもの(4)だけになりがちです。ほかの8項目は、頭の中では「仕事のうち」に入っていても、見積には入っていないことがあります。
1件を工程に分けて、それぞれの時間を書く手順
- 直近で受けた仕事を1つ選ぶ
- 上の9項目を縦に並べ、横に「かかった時間」を書く
- 思い出せる範囲で埋める
- 思い出せないところは空欄のまま残す
空欄は、無理に推測で埋めなくて大丈夫です。次の仕事から、始めた時刻と終わった時刻だけをメモに残してください。2〜3件記録がたまると、自分の1件が実際には何時間かが見えてきます。
| 工程 | かかった時間 | メモ |
|---|---|---|
| 最初の打ち合わせ | ◯時間 | 日程調整のやりとりは別 |
| 下調べ | ◯時間 | |
| 見積書づくり | ◯時間 | |
| 作業そのもの | ◯時間 | |
| 修正対応 | ◯時間 | 何回目の修正か |
| メール・チャット | ◯時間 | |
| 移動 | ◯時間 | |
| 納品後の確認 | ◯時間 | |
| 請求書づくり | ◯時間 | |
| 合計 | ◯時間 | これが1件の本当の時間 |
NG例:「作業時間×時給」だけで計算する
作業そのものの時間に時給を掛けて見積を作ると、手を動かしている時間しか数えていないことになります。打ち合わせや修正が増えるほど、実質の時給は下がっていきます。忙しいのに手元に残らないときは、まずここを疑ってください。
手順2:暮らしと経費から、1時間あたりの下限を出す
時間が見えたら、次は「1時間にいくら必要か」の下限を出します。下限は、相場を見る前に、自分の暮らしだけから出します。
下限を出す計算の順番
数字は、すべて自分で入れてください。
| 項目 | 内容 | 自分の数字 |
|---|---|---|
| ① 1年に必要な生活費 | 家賃、食費、日々の支出など | ◯円 |
| ② 1年の仕事の経費 | 道具、ソフト、通信、交通、場所代など | ◯円 |
| ③ 税金や保険のぶん | 税金、国民健康保険、年金など | ◯円 |
| ①+②+③ | 1年に稼ぐ必要がある金額 | ◯円 |
| ④ 1年で仕事に使える時間 | 下で説明します | ◯時間 |
| 下限 | (①+②+③)÷④ | 1時間あたり◯円 |
「使える時間」は思っているより少ない
④の時間には、注意が必要です。営業、事務、勉強、休みの時間は、売上になりません。
NG例は、1日8時間に稼働日を掛けて、そのまま割ってしまうことです。8時間のうち、実際にお金をもらえる仕事に使えている時間は、もっと少ないはずです。手順1で記録した時間を見て、売上につながった時間が1日どれくらいかを出し、それに実際に働く日数を掛けてください。最初は多めの見込みで構いません。記録がたまったら置き換えます。
下限は、それより下では受けない線
下限は、理想の金額ではありません。それを割る仕事を受けない、という線です。
ここを割る仕事を受け続けると、時間が埋まります。そのうえで、いい話が来たときに手が空いていないという状況が起きます。下限を決めておくことは、先の仕事を受ける余地を残すことでもあります。
税金や保険の計算は、収入や働き方によって人それぞれ違います。③の数字は、個別の判断を税理士など専門家に相談して出すと安心です。
手順3:相場は値段を決めるためではなく、自分の位置を確かめるために見る
下限が出てから、はじめて相場を見ます。この順番にすると、料金表の見え方が変わります。他の人の値段を見て自分の値打ちを測るのではなく、自分の下限が相場のどこにあるかを確かめる、という見方になるからです。
相場の見方を3つ
- 同業者が公開している料金表
- 仕事の仲介サイトに出ている募集の金額
- 同業の知り合いに直接聞く
どれも、条件があります。同じ範囲の仕事で比べることです。「ロゴ制作」と書いてあっても、打ち合わせの回数や修正の回数、納品物の種類が違えば、別の仕事です。範囲が違うものを並べても、比べたことになりません。この記事では具体的な金額は書きませんので、実際の数字は、ご自身で確かめてください。
自分の下限と相場を並べたときの3つの判断
| 並べた結果 | 考えること |
|---|---|
| ① 下限が相場の中に入る | そのまま次に進みます |
| ② 下限が相場より上 | 仕事の範囲を絞るか、相手を変えます |
| ③ 下限が相場よりずっと下 | 時間の見積もりが甘い可能性があります。手順1に戻ります |
③のときは、下限が低すぎて安心、ではありません。手順1の抜けがあるかもしれないので、もう一度時間を見直してください。
NG例:いちばん安い人に合わせる
いちばん安い人に合わせると、比べられるのが値段だけになります。次に値上げの話をしようとしたときにも、切り出しにくくなります。相場の幅の中で、自分の仕事の中身を説明できる位置を選んでください。
最初の値段を決めて、口に出せる形にしておく
下限と相場の位置が分かったら、最初の値段を決めます。決めただけでは、まだ使えません。相手に言える形にして初めて、単価として働きます。
総額を中身で分ける
「一式◯円」とだけ書くと、値段の話しかできなくなります。工程ごとに分けておくと、値段を聞かれたときに、金額ではなく中身の話ができます。
| 工程 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 打ち合わせ・下調べ | 要望の聞き取り、事前の調査 | ◯円 |
| 制作 | 納品物の作成 | ◯円 |
| 修正 | ◯回まで含む | ◯円 |
| 納品・事務 | 納品後の確認、請求まで | ◯円 |
| 合計 | ◯円 |
分けた金額は、手順1の時間に下限を掛けて出した数字から作れます。
値段を伝える一文の型
金額と範囲を、必ずセットで言います。
「この金額で、打ち合わせから納品まで対応します。修正は◯回まで含みます。」
「制作費は◯円です。内訳は、打ち合わせと下調べが◯円、制作が◯円、修正◯回分が◯円です。」
「◯円でお受けします。範囲は、ご依頼いただいた◯◯の制作と、納品後◯日間の確認対応までです。」
3本のうち、自分の仕事に近いものを1本選んで、言葉を入れ替えて使ってください。
NG例:聞かれる前に値引きを言う
次の2つは、避けたい言い方です。
- 「お安くしておきます」
- 「今回は勉強させてください」
聞かれていないのに先に下げると、最初の値段が自分で作った「定価」ではなくなります。
予算に合わないと言われたときは、金額を下げずに、範囲を減らす提案をします。減らせるのは、修正の回数、納期、作業の量です。
「ご予算が◯円でしたら、修正を◯回までにして、◯◯の部分を今回は外す形でお受けできます。」
「その金額ですと、ここまでの範囲であれば対応できます。範囲を広げる場合は、◯円になります。」
断られた場合は、そこで終わりにせず、次につながる返し方を用意しておきます。
「承知しました。今回はご縁がなかったということで。範囲を絞った形でもお出しできますので、また何かあればお声がけください。」
金額を口にする瞬間に止まってしまうとき
見積書は作ったのに、送信ボタンを押す前に、金額を少し下げる。対面で値段を聞かれて、「ご予算は…」と相手に聞き返してしまう。そんなことはないでしょうか。
金額を言う瞬間に、自分の値打ちを言っている気がする。その感覚は自然なものです。ただ、値段は自分の価値の点数ではありません。仕事の条件です。手順1〜3で出した根拠があるので、条件として説明すれば足ります。
最小の行動を1つだけ
次の見積を送る前に、紙に2つ書きます。
- 金額
- その金額になる理由を一文で(例:「打ち合わせから修正◯回までを含む金額です」)
書いたら、声に出して一度読んでから送ります。声に出すだけで、数字が自分の口から出る練習になります。
見積を出したあとの伝え方は、お金の話の伝え方でくわしく書いています。値段を言ったあとに相手が黙ったときなどは、そちらも読んでみてください。
決めた単価を見直すタイミングと、上げ方
単価は、一度決めたら終わりではありません。年に一度は、手順1〜3をやり直すと決めておくと、ずれに気づきやすくなります。
見直すきっかけを3つ
- 記録した時間が、見積よりいつも多い
- 同じ範囲の仕事を何度もこなして、実績が手元に残った
- 経費が増えた
1つでも当てはまったら、手順1に戻って時間を取り直します。
上げるときは新しい相手から
値上げは、新しい相手から始めるほうが切り出しやすいです。今の取引先には、次の案件の前に、あらかじめ伝えます。
「次回から、この範囲でこの金額になります。これまで◯◯の対応が増えており、かかる時間に合わせて見直しました。」
理由は、時間と範囲で説明します。気持ちや事情ではなく、かかっている時間と仕事の範囲を理由にすると、相手も判断しやすくなります。
NG例は2つ
- 何も言わずに、次の見積だけ上げる
- 何年も同じ金額のまま据え置く
黙って上げると、相手は理由が分からず、不信感が残りやすくなります。据え置くほど、上げる話は切り出しにくくなります。年に一度の見直しは、そのためにも続けてください。
よくある質問
フリーランスで実績がないうちは、相場より安くした方がいいですか?
自分の下限より下では受けないでください。実績が少ないぶんは値下げではなく、範囲を絞った小さなメニューで始める方法があります。安く始めると、あとで上げる話がしにくくなりがちです。
単価は時給で出すのと、一式で出すのとどちらがいいですか?
中身は時間で計算し、相手に見せるときは工程ごとに分けた金額で出す形をおすすめします。一式だけだと、値段の話しかできなくなります。
相場より高い値段を付けても大丈夫ですか?
時間と経費から出した根拠を、仕事の範囲として説明できるなら問題はありません。説明できないときは、仕事の範囲か時間の見積もりを見直してください。
値切られたときはどう返せばいいですか?
金額は下げず、修正回数・納期・作業の量など、範囲を減らす案を出します。「ご予算が◯円でしたら、修正を◯回までにして、◯◯を今回は外す形でお受けできます」のように、範囲と金額をセットで返してください。
今の取引先に値上げを伝えるにはどうすればいいですか?
次の案件の前に、新しい金額と範囲を前もって伝えます。理由はかかっている時間と範囲で説明し、黙って見積だけ上げることは避けてください。
本記事は、当編集部の制作基準——出典との照合・表現・重複の多段検証——を通過したものだけを公開しています(下書きにはAIを活用)。 仕組みの詳細は編集プロセスの開示をご覧ください。
