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このシリーズの全体像 対面営業のコツ完全ガイド — 会って、信頼で売る技術の全体像
表情や声が硬いのは、性格のせいではない
商談の帰り道、特に失礼なことは言っていないのに、なぜか手応えがなかった日はないでしょうか。

しゃべりすぎ型かもしれません。沈黙が怖くて自分の説明で埋めてしまい、相手の話を取ってしまう型です。「うまく話せないのは性格のせいで、自分は人に好かれる顔でも声でもない」——そう結論づけたくなる日もあると思います。
でも、暗いからではありません。言葉と表情がズレているからです。
非言語は対面営業の技術の一部です。全体像は対面営業の極意で整理していますが、ここでは表情・声・姿勢だけを取り出して具体的に見ていきます。
1971年に発表された論文で「メラビアンの法則」として知られる調査があります。視覚情報55%、聴覚情報38%、言語情報7%を占めるとされています。ただしこの数字には条件があります。この法則はあくまで言葉と非言語情報が矛盾しているという限定的な状況下で、それぞれがどう影響するかを検証したものです。「見た目が9割」という意味ではありません。
だから対策は「明るい人になる」ではありません。「言っていることと、顔・声を一致させる」の一点です。
よくあるズレの例です。
- 「御社に興味があります」と言いながら、手元の資料に目を落としている
- 「ぜひやりたいです」と言いながら、語尾で声が下がっていく
言葉は前向きなのに、表情と声だけが本音を漏らしています。相手はその矛盾のほうを信じます。
自分の話になりますが、訪問販売を始めたばかりの頃は200件回って1件という時期がありました。断られ方が変わったのは、話す内容を変えたときではありません。話す内容と態度が揃ったときでした。
第一印象は15秒、姿勢は0.1秒で伝わっている
時間にするとおよそ15秒で第一印象は決まるとも言われています。五感の中でも視覚が占める割合は約83%を占め、目から入ってくる情報の比重は大きいとされています。ただし、この83%という数字の一次出典までは確認できておらず、ビジネスマナー講座向けの記事での紹介にとどまります。

姿勢だけを取り出した研究もあります。「よい」と意図した姿勢は「悪い」と意図した姿勢に比べ、特に信頼性が高く評価されました。しかもその印象は、0.1秒という非常に短い時間で形成されることがわかっています。
つまり判定は、名刺を出す前、椅子に座る前から始まっています。話の中身で挽回しようとしても、そこはもう採点が終わったあとです。
実務に落とすなら、玄関・受付・エレベーターを「もう商談中」と定義し直すことです。準備の締切を「着席したとき」ではなく「建物に入るとき」に前倒しします。
手順は3つです。
- 建物の前で一度立ち止まり、背中を伸ばす
- 荷物を持ち替えて、右手を空ける
- ドアを開ける前に、一度だけ息を吐く
姿勢の基準は「胸を張る」ではなく「頭のてっぺんを天井に近づける」で考えると崩れにくくなります。ここは自分の経験からの感覚ですが、胸を張ると威圧的に見えやすく、頭を上げる意識のほうが誠実に見えるためです。
下調べなし型の人が特に損をしている場面があります。会う前の10分を移動と検索に使い切ってしまい、姿勢と表情を整える時間がゼロになっているケースです。
笑顔は「作れる人が2割」の技術だと知る
最も魅力的に感じられる笑顔の部位は、目尻にシワが現れる「目」、次いで口角が上がることで開かれる「口元」です。頬骨筋と頬筋、笑筋と下唇下制筋を十分に収縮させ、頬を持ち上げて目を細くし、口を半月形に広げる笑顔に、人は好感を抱くとされています。

早稲田大学の実験では、目まで笑う「デュシェンヌ・スマイル」を作れた学生は全体の2割でした。
この数字の使い方があります。その実験では、8割の学生ができていませんでした。つまり「自分は愛想が悪い」ではなく、「習っていない」だけです。腕の問題ではありません。
口だけ動かす笑顔が相手にどう届くか。営業でよく起きるのは、口角は上がっているのに目が動かず、「営業スマイル」として処理されてしまうことです。
練習の手順です。鏡の前で、
- 口角を上げる
- そのまま頬を持ち上げて目を細くする
- 目尻にシワが出たかを確認する
これを1日30秒、10日続けます。
NG例は、話し始めから終わりまで同じ笑顔を保つことです。相手が課題や不満を話しているときにまで同じ笑顔でいると、言葉と表情が矛盾します。1章で見た「言葉と非言語のズレ」と同じことが、顔の上で起きています。
声の高さより「どの話をどの声で言うか」
普通の行動は、どちらの声で語られても印象への影響はほとんどありません。ところが、悪い印象を与える行動は幸せそうな声で話されると印象が良くなり、よい印象を与える行動は悲しい声で語られると印象が悪くなることがわかっています。
これを営業に置き直すと、声を作り込むべき場面は限られます。効くのは「言いにくいことを言うとき」と「いい話をするとき」の2か所です。
納期が延びる、金額が上がる、できないと断る——こうした言いにくいことを暗い声で言うと、内容以上に悪く受け取られます。事実は事実のまま伝え、声だけは落とさないことです。
逆に、実績や強みを自信のない声で言うと、いい話が悪い話として届いてしまいます。値段が言えない型の人は、金額のところだけ声が小さくなりがちです。
場面別の対応表です。
| 場面 | 声の使い方 |
|---|---|
| 謝る・悪い報告 | 声は落とさない。速度は落とす |
| 金額を言う | 語尾まで同じ音量で言い切る |
| 相手の課題を聞く | 声を一段下げる |
| 提案の要点を話す | 速度を落として区切る |
NG例は、金額を言ったあと語尾を上げて「……で、どうでしょうか」と濁すことです。値段が条件ではなく、お伺いになってしまいます。
沈黙・うなずき・視線——聞く側の非言語
ここまでは自分がどう見えるかの話でした。ここからは、相手が話しやすいかどうかで設計する非言語です。

沈黙が怖くて、説明で埋めてしまう人は多いと思います。埋めた分だけ相手の情報が減り、提案の精度が落ちます。
自分が商談の中で使っている「3秒ルール」があります。相手が話し終わったあと、3秒だけ待つというものです。経験上、そこから本音の一文が出てくることが多いと感じています。
うなずきは使い分けます。事実を聞いているときは小さく1回。困りごとを聞いているときはゆっくり深く1回。速い連続うなずきは「早く終わってほしい」の合図として伝わることがあります。
視線も同じです。目を見続けるのではなく、相手が言葉に詰まったときは手元に視線を落とします。見られていないほうが話しやすい話題があります。
メモの取り方も非言語です。相手が金額や不満を口にした瞬間にペンが止まると、「そこに反応した」と伝わります。逆にずっと書き続けていると、聞いていないように見えます。
座る位置も、声より先に相手に伝わっています。真正面に座ると、机を挟んで向き合う形になり、無意識に身構えられやすいと感じています。資料を挟んで斜めの位置に座ると、一緒に画面や紙を覗き込む姿勢になり、説明も聞き取りも柔らかくなります。
腕組みも見られています。内容はきちんと聞いていても、腕を組んだままだと「拒んでいる」ように映ります。手をテーブルの上に置いておくだけで、開いた姿勢に変わります。
資料やペンの向きも非言語です。相手が読みやすい向きに変えて資料を渡す、ペン先を相手に向けずに置く——小さな配慮の積み重ねが、言葉より先に「気が利く人だ」という印象を作ります。
距離感にも適正があります。近すぎると圧迫感になり、遠すぎると距離を置かれていると相手に感じさせてしまいます。名刺入れや資料を置く位置を目安にすると、無理なく整えられます。
オンラインでは非言語の一部が落ちる
姿勢・距離・場の空気——対面で効いていたものの一部は、画面ではほとんど届きません。五感のうち視覚が占める割合は約83%とされていますが、この数字の一次出典までは確認できていません。視覚に入る情報が「顔の四角い枠」だけに絞られることは確かです。
だから、対面で使っていた姿勢・距離・場の空気の作り方は、そのまま持ち込んでも効きません。置き換えが必要です。
| 対面での非言語 | オンラインでの置き換え |
|---|---|
| 姿勢 | カメラの高さを目線に合わせる。見下ろすと威圧的、見上げると自信なく見える |
| うなずき | 対面よりわかりやすく大きく |
| 沈黙 | 回線の間と区別がつかないので「少し考えます」と声に出す |
| 視線 | 話の要点だけカメラを見る |
音声の優先順位は、画質より音質です。声のトーンが内容の印象を左右することは研究でも示されていますが、音割れそのものの影響を調べた研究は確認できていません。ここは自分の商談経験からの判断ですが、声が割れると聞き取りにくさ以上に、内容まで悪く受け取られやすいと感じています。
対面に戻したときの差もあります。画面で伝わらなかった熱量が、一度会うだけで前提として共有されます。オンラインで詰まっていた案件は、非言語の総量が足りていないだけのことがあります。
非言語だけでは売れない——中身との一致が本体
ここまでの技術は上乗せであって本体ではありません。表情と声だけを整えても、話す中身がなければ空回りします。
経済産業省が2006年に提唱した社会人基礎力の「発信力」は、自分の意見や考え、情報を相手に分かりやすく明確に伝える力とされています。伝える中身があって、そこに表情と声が乗る、という順番です。
その後の話です。1章で触れた「200件で1件」の時期を抜けたあと、同じ話を200件分繰り返して中身が固まった頃の月には、20件決まるようになりました。話し方がうまくなったからではなく、話の中身が固まったからです。固まった話は、自然と声が安定します。
逆に言えば、声が震えるのは性格ではありません。その話をまだ自分が信じきれていないサインです。これは練習量で消えます。
自分が扱ってきた範囲で言えば、住宅のように商品力と価格でほぼ決まってしまう商材では、表情でひっくり返せる差はありませんでした。非言語が効くのは、中身が同点のときだけだと考えています。
今日やることは1つだけにします。次の商談で、金額を言うときの語尾だけ落とさない。それ以外は変えません。
よくある質問
メラビアンの法則の「見た目が9割」は営業でも本当ですか
原義は違います。1971年の論文で示された視覚55%・聴覚38%・言語7%は、言葉と非言語情報が矛盾している限定的な状況での検証結果です。中身が要らないという意味ではなく、言葉と表情・声を一致させることが大切という話です。
営業の第一印象は何秒で決まりますか
およそ15秒と言われ、五感のうち視覚が約83%を占めるとされます。姿勢に限れば0.1秒という短時間で印象が形成されるという研究もあります。名刺交換の前にもう始まっていると考えて準備します。
笑顔が苦手です。作り笑いだと思われませんか
目まで笑う笑顔(デュシェンヌ・スマイル)を作れたのは、早稲田大学の実験で全体の2割でした。できないのが普通です。口角だけでなく頬を持ち上げて目を細くする——鏡の前で1日30秒の練習で変わります。
声が小さい・低いのは営業に不利ですか
高さより一致が効きます。悪い報告を暗い声で言うと内容以上に悪く伝わり、いい話を悲しい声で言うと良さが消えます。特に金額を言うときに語尾の音量を落とさないこと。ここだけで印象が変わります。
オンライン商談でも非言語は効きますか
効き方が変わります。姿勢や距離感が画面から落ちるので、置き換えが必要です。カメラの高さを目線に合わせる、うなずきを対面より大きくする、沈黙は「少し考えます」と声に出す。画質より音質を優先します。
参照した情報源
- メラビアンの法則とは?具体例やビジネスシーンでの活用方法を紹介(カオナビ(人事用語辞典))・確認日 2026-09-07
- 人によい印象を与えるには~印象形成における姿勢と声のプロソディの効果(早稲田大学 高等研究所(北村美穂准教授))・確認日 2026-09-07
- 好印象を与える笑顔とは?(早稲田大学 人間科学学術院)・確認日 2026-09-07
- 15秒で決まる第一印象|ビジネスマナー講座(ANAビジネスソリューション)・確認日 2026-09-07
- 社会人基礎力とは何か?3つの能力・12の要素と鍛え方・チェックシートを紹介(グロービス経営大学院(経済産業省定義の引用))・確認日 2026-09-07
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