この記事は『提案と見積』の棚です 棚の記事一覧 →
このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
見積書の作り方で最初に決めるのは書式より「総額をどう分けるか」
結論から言うと、見積書を作るときに最初に決めるのは、次の3つです。①総額をどの作業に分けるか、②どこまでを料金に含めるか、③いつまで有効か。書式やテンプレートは、そのあとで足ります。
従業員を抱える会社の工事見積など項目が増える場合も、考え方は同じです。金額の伝え方まで知りたい場合は、お金の話の伝え方もあわせて読んでください。
「もう少し安くなりませんか」と返ってきたとき
見積書を送って数日たつと、返信が来る。開いてみると「もう少し安くなりませんか」の一文だけ。仕事の中身には何も触れられていない。
金額のことだけ聞かれて、仕事の中身には触れてもらえない。それがつらい。「やっぱり自分の仕事は、この値段の価値がなかったんだ」と、一通の返信から結論を出してしまうことがあります。そこから先は、いくらまで下げれば受けてもらえるかを考える時間になります。
ただ、値下げの相談だけが返ってきたとき、仕事の値打ちとは別のところに理由がある場合もあります。値下げを頼まれたことは、それだけで腕への評価にはなりません。見積書の側に、相手が話せる材料が金額しかなかった、というケースです。
総額だけの見積書だと、相手が比べられるのは金額しかない
たとえば、こういう見積書です。
件名:ホームページ制作 ホームページ制作一式 ◯◯円
受け取った側から見ると、中身が見えません。どの作業にいくらかかっているのか分からない。どこを減らせば予算に収まるのかも分からない。残る言い方は「総額を下げてもらえませんか」だけです。相手は高いか安いかでしか話せない状態になっています。
同じ金額でも、中身が見えれば「この作業はなくてもいい」「ここは手厚くしたい」という話ができます。
中身を分けずに総額だけを出すので、相手とは値段の話しかできなくなる。ここでは、これを「総額だけ型」と呼びます。
総額を作業ごとに割ると、値段以外の話ができる
ここから抜け出す最小の行動は、総額を作業ごとに割ることです。腕を上げることでも、値段を下げることでもありません。見積書の書き方を1か所変えるだけです。
先に決めることは3つだけ
「見積書 テンプレート」を探す前に、次の3つを決めます。

| 順番 | 決めること | 具体的には |
|---|---|---|
| ① | 総額をどの作業に分けるか | ヒアリング、制作、修正、納品など、相手から見て意味のある固まり |
| ② | どこまでを料金に含めるか | 作業範囲、修正の回数、含まないもの |
| ③ | いつまで有効か | 見積の金額を保証する期限 |
「書式はExcelでいいのか、専用ソフトがいいのか」という疑問には、こう答えます。どちらでも構いません。読む人が追える形になっていれば足ります。大事なのは書式より、①〜③が書かれているかどうかです。
見積書に決まった様式はあるのか
見積書の書き方そのものを定めた法律上の様式や、必ず書く項目は、確認できた範囲では見つかっていません。このあと出てくる項目の一覧は、実務でよく使われているものを整理したもので、公的な定義ではありません。
見積書に入れる項目一覧|個人事業主・フリーランス向けチェックリスト
書類としてそろえる項目
見積書を作るときに、一般的に入れる項目です。右の列は「書かないと何が起きるか」を示しています。
| 項目 | 書かないと何が起きるか |
|---|---|
| 宛名 | 誰宛ての見積か分からず、相手が社内で回すときに迷う |
| 発行日 | いつの時点の条件か分からない。有効期限の数え方も決まらない |
| 見積番号 | 後で「あの見積」と呼び合えない。修正版との区別がつかない |
| 発行者(屋号・氏名・連絡先) | 誰からの見積か、どこに連絡すればいいかが書類からは分からない |
| 件名 | 相手が社内で回すとき、どの案件か分からない |
| 明細(品目・数量・単価・金額) | 中身が見えず、値段の話しかできなくなる |
| 小計・消費税・合計 | 税込か税別かで食い違い、金額の認識がずれる |
| 納期 | いつ終わる前提の仕事か、双方でばらつく |
| 支払条件 | 入金がいつか分からないまま次の仕事を受けることになる |
| 有効期限 | 材料費や自分の予定が変わったあとも、古い金額を求められる |
| 備考 | 含まないもの・修正回数などの条件を書く場所がなくなる |
消費税やインボイスの扱いは、事業の状況によって変わります。ここでは深入りしません。個別の判断は、税理士などの専門家に相談してください。
あとで揉めやすい3項目
上の一覧で、特にあとで揉めやすいのは次の3つです。
- 作業範囲(どこまでやるか)
- 修正回数(何回まで料金に含めるか)
- 有効期限(いつまでこの条件か)
どれも金額の欄ではなく、条件の欄です。ここが書かれていないと、あとで条件が曖昧になり、話が総額だけに戻ってきます。逆に、この3つが書いてあれば、値段以外の話ができる土台になります。
freeeの解説では、有効期限は設定しなくても問題はないとされています。それでも書いておくのは、あとで条件を見直すときの足がかりになるからです。
テンプレートを使うときに自分で足す欄
配布されているテンプレートには、品目・単価・金額の欄が中心で、「含まないもの」「修正回数」の欄が用意されていないものもあります。そのまま使うと、先ほどの3項目のうち2つが抜けた見積書になります。
足す場所は備考欄です。欄を増やす必要はありません。備考に次の2行を書くだけで足ります。
含むもの:◯◯、◯◯(修正◯回まで) 含まないもの:◯◯、◯◯、◯回目以降の修正
具体的な書き方は、後の章で例文を出します。
明細の分け方|「一式」を作業ごとに割る手順
「一式」が値下げの相談につながりやすい理由
「一式」は書いてはいけない言葉ではありません。ただ、一式の1行だけだと、相手は削る場所を選べません。総額を下げてもらう以外の言い方がなくなります。比べてみます。
NG例
ロゴデザイン一式 ◯◯円
OK例
ヒアリング・方向性の整理 ◯◯円 ラフ案の制作(◯案) ◯◯円 修正対応(◯回まで) ◯◯円 データ納品(各形式) ◯◯円
OK例なら、相手は「ラフ案は2案でいい」「修正は1回で足りる」といった言い方ができます。総額を下げてほしいという相談が、項目をどうするかという相談に変わります。
職種別の分け方の例
金額は入れず、行の立て方だけ示します。回数や時間は例で、自分の仕事に合わせて決めてください。
| 職種 | 行の立て方の例 |
|---|---|
| デザイナー | ヒアリング/ラフ案(◯案)/修正(◯回まで)/データ納品 |
| ライター | 取材/構成/執筆/修正 |
| カメラマン | 撮影(◯時間)/レタッチ(◯枚)/交通費 |
| 施術者・講師 | 準備/当日/資料作成 |
分けすぎない目安
分ければ分けるほどいいわけではありません。相手がひと目で追える行数にまとめます。
NG例(分けすぎ)
打ち合わせ準備 ◯◯円 打ち合わせ(1回目) ◯◯円 打ち合わせ後の議事録作成 ◯◯円 打ち合わせ(2回目) ◯◯円 資料の誤字確認 ◯◯円
読む人は、どれが大きな固まりか分からなくなります。細かい作業は1行にまとめ、かっこの中に中身を書きます。
打ち合わせ・議事録作成(2回分) ◯◯円
これなら、相手が見ても追える行数です。
分ける手順は3ステップ
- その仕事でやったことを時系列で書き出す。 順番は気にせず、思い出せるものをすべて書く
- 相手から見て意味のある固まりにまとめる。 自分の都合の作業名ではなく、相手が「それは必要」「それは要らない」と判断できる名前にする
- 固まりごとに単価を置く。 合計が、これまで出していた総額とほぼ合うかを確認する

過去に出した見積を1枚取り出して、この3ステップを試すと、自分の仕事がどう分かれるかが見えてきます。
作業範囲と修正回数を備考欄に書く|あとで揉めないための一文
「含むもの/含まないもの」を並べて書く
備考欄に、次の形で書きます。
本見積に含むもの:トップページのデザイン、修正2回まで 含まないもの:写真撮影、文章作成、3回目以降の修正
修正の回数は例です。何回までを料金に含めるかは、各自の仕事の量と基準で決めてください。大事なのは、含まないものを先に書いておくことです。
修正回数と追加料金の書き方
「◯回まで」と書くだけでは、その先の扱いが決まりません。追加の条件も先に書いておきます。
3回目以降の修正は、1回あたり◯◯円
書いていないと、追加の相談のたびに、値段の話から始まりやすくなります。条件が先に書いてあれば、相談は「追加で頼みますか」という確認で済みます。
値下げを頼まれたときの返し方を1つだけ
明細があれば、値下げを頼まれても、総額を下げる以外の返し方ができます。どの項目を外すか、一緒に選んでもらいます。

ご予算に合わせるなら、レタッチの枚数を減らす形でいかがでしょうか。
総額を下げる代わりに、外せるものを相手に選んでもらうやり方です。値下げを頼まれたことは、腕への評価にはなりません。見積書に、相手が動かせる項目がなかっただけかもしれません。条件を動かす形で調整すれば、各項目の単価を下げずに済みます。
金額を口で伝える場面については、お金の話の伝え方で扱っています。見積書は、その前に相手へ渡す材料にあたります。
有効期限・支払期日・納期の決め方
有効期限の考え方
freeeの解説では、一般的な見積書の有効期限は2週間から6ヶ月程度とされています。同じ解説では、期限の長さに法的な決まりはなく、有効期限を設定しなくても問題はないとされています。
そのうえで、材料費や自分の予定が動く仕事なら、期限を短めにして書いておく、という考え方があります。何日にするかは仕事の性質で変わるので、ここでは日数を勧めません。期限があれば、あとで条件を見直すときに「この見積の期限が切れているので、あらためてご相談させてください」と言えます。
支払期日を見積書の段階で書いておく理由
支払期日は、見積書の段階で書いておくと、あとで食い違いません。書き方の例です。
お支払い:納品月の翌月末まで お支払い:納品後30日以内
期日を書かずに受けると、入金がいつか分からないまま、次の仕事を受けることになります。資金の見通しが立たない状態で動くことになるので、先に書いておくほうが安全だと私は考えます。
フリーランス法との関係
相手が事業者で、法律上のフリーランスにあたる場合、業務を委託した発注事業者には、直ちに書面またはメール等で取引条件を明示する義務があります。これは発注側の義務で、受注側が見積書に何を書くかの根拠にはなりません。ただ、見積書で先に条件を出しておくと、発注側から届く取引条件とずれていないかを照らし合わせやすくなる、というのが私の見方です。法律の義務を満たすためではなく、自分の身を守る確認として使えます。制度の細かい扱いや個別のケースの判断は、専門家に相談してください。
送る前の5点チェックと、送るときのひと言
送る前の5点チェック
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| ① 宛名と件名は合っているか | 会社名・担当者名・案件名の書き間違い |
| ② 「一式」の行が残っていないか | 作業ごとに割れているか |
| ③ 含まないもの・修正回数を書いたか | 備考欄に2行あるか |
| ④ 有効期限と支払期日を書いたか | 日付や「翌月末」などの書き方が明確か |
| ⑤ 合計の計算は合っているか | 小計・消費税・合計を電卓で確かめる |
特に⑤は、送ったあとに直すと相手に不安を持たれかねません。自分で計算し直してから送ります。
送るときのメール文例
PDFだけを送らず、明細のどこを相談できるかをひと言添えます。
お世話になっております。◯◯です。 ご依頼の件、見積書を添付いたします。 内容をご確認いただき、ご不明な点があればお知らせください。 ご予算に合わせて項目の調整もできますので、気になる点があればお知らせください。 どうぞよろしくお願いいたします。
このひと言があるだけで、相手は「総額を下げてください」ではなく「この項目はどうなりますか」と返しやすくなります。
今日やれること
直近で出した見積書を1枚取り出してください。「一式」の行を、先ほどの3ステップで作業ごとに割り直します。備考欄に「含むもの/含まないもの」を書き足します。それを自分用のテンプレートとして保存します。
次からは、それを元に作ります。短い時間で同じ構成の見積書を作りやすくなります。
よくある質問
個人事業主の見積書に決まった書式はありますか?
見積書の様式を定めた公的な決まりは、確認できた範囲では見つかっていません。一般的な項目(宛名・明細・合計・有効期限など)がそろっていれば、Excelでもテンプレートでも構いません。書式より、明細の分け方のほうが大事です。
見積書の有効期限は書かないといけませんか?
freeeの解説では、期限の長さに法的な決まりはなく、有効期限を設定しなくても問題はないとされています。一般的には2週間から6ヶ月程度で設定されます。予定や費用が動く仕事なら、書いておくと、あとで条件を見直しやすくなります。
見積書の明細を「一式」でまとめてもいいですか?
書いてはいけないわけではありません。ただ、一式だけだと相手が比べられるのが金額だけになり、値下げの相談につながりやすくなります。作業ごとに分けて、削れる項目を相手が選べるようにすると、話の中身が変わります。
見積書を出したあとに値下げを頼まれたらどうすればいいですか?
総額を下げるのではなく、明細のどの項目を外すか、減らすかを一緒に選んでもらいます。例えば「レタッチの枚数を減らす形でいかがでしょうか」と提案します。金額の伝え方は、お金の話の伝え方の記事で扱っています。
フリーランス法で見積書の書き方は決まっていますか?
フリーランス法は、業務を委託した事業者が、取引条件(給付の内容・報酬の額・支払期日など)を書面かメール等で明示する義務を定めたものです。受注側の見積書の書き方を決めたものではありません。個別の判断は専門家に相談してください。
参照した情報源
- 見積書の有効期限(freee ヘルプ)(freee株式会社)・確認日 2026-10-20
- 公正取引委員会フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)・確認日 2026-10-20
本記事は、当編集部の制作基準——出典との照合・表現・重複の多段検証——を通過したものだけを公開しています(下書きにはAIを活用)。 仕組みの詳細は編集プロセスの開示をご覧ください。