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このシリーズの全体像 対面営業のコツ完全ガイド — 会って、信頼で売る技術の全体像
追客が続かないのは、しつこいからではない。「何回目か」を決めていないからだ
見積もりを出して3日。送っていいものか分からず、下書きを消してタブを閉じる。そのまま1週間が過ぎて、他社に決まりましたと連絡が来る——という経験に心当たりがあるかもしれません。

「しつこいと思われたくない」が理由に見えます。でも実際に、追客をして相手にはっきり嫌われた経験を挙げられる人は、私の周りでは多くありません。連絡を止めているのは、記憶ではなく想像です。
本当の構造はもっと単純です。これは性格の問題ではなく、「何回目の連絡か」を決めていないことが原因です。回数が決まっていれば、その回で送る中身も送っていい理由もセットで決まります。決まっていないから、1通ごとに「今出していいのか」をゼロから判断することになり、理由が弱く見えるたびに「嫌われるかもしれない」が顔を出して手が止まります。下書きを書いては消す時間だけが積み重なっていきます。
相手の番型かもしれません。出したあとに何をすればいいか習っていないので、「あとは相手の番」で止まる型です。返事が来ないのがつらいのではなく、金額を見て黙られたのがつらいんだと思います。
高いと思われたのではなく、決められないだけかもしれません。金額そのものより、社内でどう説明すればいいか、相手も迷っている場合があります。
方法は1つだけです。「次いつ出すか」を、送信した瞬間にカレンダーへ入れます。回数と間隔を先に決めておけば、当日の自分は「出すかどうか」を判断しなくて済みます。判断するのは、送るときではなく設計するときの1回だけにします。
新規の見込み客と初めて商談の機会を得るまでの接触は平均8回、成果を出す営業は平均5回というデータがあります。これは受注までの回数ではなく、最初の商談を取り付けるまでの回数の話です。ここで大事なのは回数の絶対値そのものより、「目的に届くまでの接触には一定の回数がかかる」という考え方を、見積もり後の追客にも当てはめられるということです。ここからは自分の商談を振り返っての整理ですが、5回で最初の商談にたどり着ける人は回数が少ないのではなく、1回あたりで前に進める量が多いのだと思います。
5回の接触を設計する — 何を送るかを回ごとに変える
回数だけ決めても、中身が同じなら効きません。5回すべて「その後いかがでしょうか」だと、5回とも同じ質問を繰り返しているだけです。相手からすれば、催促が5回来ているのと変わりません。

持ち帰れる形にすると、こうなります。
| 回数 | タイミング | 送る中身 |
|---|---|---|
| 1回目 | 当日 | お礼と、決定事項の確認 |
| 2回目 | 3日後 | 相手の社内で出そうな質問への先回り回答 |
| 3回目 | 1〜2週間後 | 相手の業界・会社に関係する情報を1本 |
| 4回目 | 1ヶ月後 | こちらの状況変化(空き枠・事例) |
| 5回目 | 2〜3ヶ月後 | 区切りの一言と「今はどんな状況ですか」 |
どの回にも共通する型が3つあります。①相手の名前で始める ②前回の会話に出た具体語を1つ入れる ③返事がなくても失礼にならない終わり方にする。
NG例:「先日はありがとうございました。ご検討状況はいかがでしょうか」だけの本文。相手が返信を書くには状況説明が必要になるので、忙しい人ほど後回しにされます。
OK例:「先日の『3月の繁忙期までに』という話、社内で日程を引くとしたら逆算で1月着手でした。判断の材料に使ってください」。相手は読むだけで済み、返事は一言でいい状態になります。
3回目も同じ考え方です。NG例は「何か動きはありましたか」。OK例は「〇〇業界向けに、似た条件の会社が予算を通した事例を見つけたので共有します」。情報を渡すだけなら、相手は返事を書く負担なく読めます。
4回目、5回目も同じです。NG例は「その後いかがでしょうか」の使い回し。OK例は4回目なら「ちょうど1件、予定より早く空きが出そうです。もし今の検討が動くタイミングと合えば、先にお伝えしておきます」、5回目なら「一区切りのご連絡です。今どんな状況か、良ければひと言だけ教えてください」。回が進むほど、聞くことを1つに絞ります。
2〜3回目までは「返事を求めない連絡」にしておきます。返事を求める回を減らすと、相手の負担が下がって、こちらも連絡を出しやすくなります。
間隔の決め方 — 当日・3日・2週間・1ヶ月・3ヶ月
間隔を決める基準は「相手の熱が冷める速さ」ではなく、「相手の社内で物事が動く速さ」です。稟議も相見積もりも週単位で動くので、3日ごとに連絡しても相手の中では何も変わっていません。
1回目を当日にするのには理由があります。BtoBの新規リード対応では、流入から5分以内にアプローチできたという回答は全体の20%にとどまり、8割は5分より時間がかかっているという調査があります。スピード対応はまだ一般的ではないということです。追客の1回目を当日に出す理由はこれとは別にあります。会話に出た数字や言葉を覚えているうちに送れるからです。日をまたぐと、相手が使った具体語も話の文脈も記憶からぼやけていきます。
見込み客に電話をかけて本人につながる割合は平均29.5%という調査もあります。この調査はインサイドセールスの新規架電が対象で、すでに一度会って見積もりまで進んだ相手を追いかける本記事のケースとは母集団が異なりますが、電話だけでは半分以上つながらない場面が一定数あることは参考になります。つながらない前提で、メール・SNS・郵送を混ぜておきます。たとえば1回目はメール、3回目はSNSでの情報共有、5回目は郵送で区切りの挨拶状にする、といった組み方です。手段を変えると、相手にとっては「また電話が来た」ではなく、そのつど別の情報として届きます。同じ手段だけで5回鳴らすのが、一番しつこく感じられるやり方です。
間隔を空けるほど、1回の重みが増します。3ヶ月空いた5回目は「まだ覚えていてくれた」になり、3日おきの5回目は「まだ言ってくる」になります。同じ5回でも、間隔次第で受け取られ方が正反対になるということです。
期限のある案件は圧縮していいものです。相手が「今期中に」と言った案件で3ヶ月空けたら、それは礼儀ではなく機会損失になります。期限が近い案件ほど、間隔は当日・3日後・1週間後というように詰めて構いません。
実務としては、送信した直後に次回分の予定を入れておきます。件名に「◯◯社 追客3回目/業界情報」まで書いておくと、当日の自分が中身を考え直さずに済みます。カレンダーの予定名に回数と中身の見出しまで入れておけば、当日は表を見返す手間もいりません。
しつこさは回数ではなく、返ってきたものを無視した回数で決まる
嫌われるのは、接触回数が多いからではありません。相手が出したサインを読まずに、同じ連絡を続けたときです。
単純接触効果という考え方があります。繰り返し接することで好意が上がる一方、10〜20回程度で効果は頭打ちになり、それ以上では好意が下がるという研究報告もあります。ただしこれは写真や単語を繰り返し見せる心理学の実験室データで、営業の接触回数とは前提も単位も異なります。上がっている区間で止める、という考え方の部分だけ持ち帰れば十分です。
回数以前の線引きもあります。電話勧誘販売については、契約しない意思を示した相手への勧誘の継続・再勧誘を法律が禁止しています。「いりません」「結構です」といった明示的な意思表示だけでなく、応答せずに電話を切られることが繰り返される場合も、これにあたるとされています。
この規定は電話勧誘販売についてのもので、対面のBtoB営業すべてに当てはまるわけではありません。ただ、「断られたら引く」という線の引き方そのものは変わりません。相手が一度でも「いりません」とはっきり言った案件を、翌週また同じ内容で追いかけるのは、法律以前に関係を壊す動きです。個別の判断は専門家に相談してください。
持ち帰れるのは、引き際チェックです。次の4つのうち1つでも当たったら、回数を足すのをやめます。
- 3回続けて開封も返信もない
- 「検討します」のあと2回無反応
- 「他で決まりました」と一度でも言われた
- 秘書や窓口で止められた
1つでも当たったら、間隔を3ヶ月以上に伸ばし、中身を情報提供に切り替えます。「検討状況はいかがですか」を送るのをやめて、「〇〇業界の動きを見つけたので、参考までに」だけにする、というイメージです。返事を求めなければ、相手は読むだけで済み、こちらも送りやすくなります。NG例は、返信がないまま毎週同じ文面を送り続けることです。相手の受信箱では、1通目と5通目が並んで見えています。
返事がないときに、追う相手と置く相手を分ける
全員を5回追おうとすると、時間が足りません。やたの商談では、動いた数に対して決まるのはわずか1件という時期がありました。追う相手を選ばないと、決まらない相手にも5回ずつ使うことになります。

仕分けの基準は、相手が自分の言葉で困りごとを話したかどうかです。「今の仕組みだと〇〇で困っている」と具体的に話した相手と、「なるほど」「検討しておきます」とうなずいただけの相手では、その後の温度がまったく違います。後者はまだ検討に入っていません。
3つに分けます。①期限を口にした相手は、5回を圧縮して追う ②困りごとを話したが期限がない相手は、通常の5回 ③こちらが話しただけの相手は、年2回の情報提供に落とす。
仕分けは記録に残します。名刺や商談メモに「期限あり/なし」と1行足すだけで、次に見返したとき迷いません。メモを取る習慣がなくても、名刺の裏や商談後のメールの下書きに一言残すだけで十分です。
NG例は、全員を同じ間隔で追い、反応が良かった人だけあとから増やすやり方です。それは仕分けではなく、その日の気分で動いているだけです。仕分けを先にやっておけば、期限がある1件に時間を使い切って、他を放置するということも起きなくなります。
5回で決まらなかった相手が、あとで戻ってくる
5回目は終わりではありません。置き場所を変えるだけです。「今回は見送りですね。また状況が変わったときに思い出してもらえるようにしておきます」で区切ります。
切った相手は、年2回の名簿に移します。ここが資産になる部分で、追客の目的は今月の受注ではなく、名簿に載る人数を増やすことです。年2回の連絡は、売り込みではなく近況共有で構いません。仕事の変化や、業界の動きを一言添えるだけで十分です。
やたの実体験として、独立初月に20件、その後7ヶ月で5億円という時期がありました(当時のやた個人の実績で、同じ結果を保証するものではありません)。増えたのは新しい出会いだけではなく、前に断られた相手が状況が変わって戻ってきた分も含まれています。名簿に載っていたから、向こうから連絡が来たときにすぐ思い出せた、という部分が大きいです。
粗利の実務感覚で言うと、私が見ていた範囲では家一件あたりの利益は薄く、1件の受注を追いかけ続けるより、戻ってくる相手が何人いるかで年間の数字が決まる世界でした。目の前の1件に一喜一憂するより、名簿の人数を積み上げるほうが、長い目で見て安定します。
持ち帰れるのは、「見送り」のあとに必ず送る一文です。「またご縁があればお願いします」で終わらせず、「次に◯◯を検討されるタイミングで、もう一度声をかけてもいいですか」と、再訪の許可だけもらっておきます。この一言があるかないかで、半年後に連絡していいかどうかの迷いが変わります。許可をもらっていない相手ほど、時間が空くと切り出しにくくなります。許可さえあれば、時間が空いても自然に始められます。
今日やること — 追客中の3件を、5回の表に当てはめる
手順は4つです。

- いま返事待ちの相手を3件だけ書き出す(全件やろうとすると始まりません)
- それぞれ「最後に連絡したのはいつか」「それは何回目だったか」を書く。回数が2回で止まっている相手が多いはずです
- 次回の日付と、送る中身の見出しをカレンダーに入れる。中身は接触設計表の該当回から選びます
- 引き際チェックに当たる相手は、追客から年2回名簿に移す。移すことは負けではなく、判断を1つ減らす作業です
たとえば「見積もり提出から2週間、連絡は1回だけ」という相手なら、次は3回目の中身(業界情報)を今週中の日付でカレンダーに入れる。それだけで、今日のタスクは終わりです。
性格を変えて押しが強くなる必要はありません。決めるのは押しの強さではなく、次にいつ何を送るかを先に決めてあるかどうかです。対面で信頼を積み上げる営業の型は、対面営業の極意にまとめています。
よくある質問
営業の追客は何回まで許されますか
回数に決まった上限はない。新規の見込み客と会うまでの接触は平均8回、成果を出す営業は平均5回というデータがある。ただし相手が断りの意思を示したあとの継続は別問題で、電話勧誘販売では法律で再勧誘が禁止されている。対面のBtoB営業にそのまま当てはまるとは限らないため、個別の判断は専門家に相談してほしい。回数より「相手の反応を読んでいるか」で判断する。
追客の間隔はどれくらい空けるのが正解ですか
当日→3日後→1〜2週間後→1ヶ月後→2〜3ヶ月後を基本形にする。基準は相手の熱ではなく、相手の社内で物事が動く速さ。稟議や相見積もりは週単位で動くので、3日おきに連絡しても相手の状況は変わっていない。期限を口にした相手だけ圧縮する。
返事がない相手に、何と書いて連絡すればいいですか
「その後いかがでしょうか」を外す。相手が返信するのに状況説明が必要な文面は後回しにされる。前回の会話に出た具体語を1つ入れて、読むだけで済む情報を渡し、返事がなくても失礼にならない終わり方にする。2〜3回目までは返事を求めない連絡でいい。
しつこいと思われているかどうかは、どう判断しますか
引き際チェックで見る。①3回続けて開封も返信もない ②「検討します」のあと2回無反応 ③「他で決まりました」と一度でも言われた ④窓口や秘書で止められた。1つでも当たったら回数を足さず、間隔を3ヶ月以上に伸ばして情報提供に切り替える。
追客をやめた相手とは、もう連絡を取らない方がいいですか
やめるのは追客であって、関係ではない。「次に検討されるタイミングでもう一度声をかけてもいいですか」と再訪の許可だけもらい、年2回の情報提供名簿に移す。状況が変わって戻ってくる相手がいる。
参照した情報源
- How Many Touchpoints Does It Take to Make a Sale?(RAIN Group)・確認日 2026-09-06
- インサイドセールス白書2023(株式会社immedio)・確認日 2026-09-06
- Mere-exposure effect(Wikipedia(Zajonc, 1968および Bornstein, 1989メタ分析を引用))・確認日 2026-09-06
- 電話勧誘販売 - 特定商取引法ガイド(消費者庁)・確認日 2026-09-06
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