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このシリーズの全体像 対面営業のコツ完全ガイド — 会って、信頼で売る技術の全体像

「準備しても勝てない」は、調べる量の問題ではない

商談前のリサーチでやることは、調べる量を増やすことではありません。会う前に「5つの空欄」を埋める型に沿って調べ、埋まらなかった欄をそのまま当日の質問に変えること。この記事では、その型と30分の配分、当日の使い方までを、そのまま使える形で渡します。

準備は大事だと分かっているのに、8割と3割の差が開く

商談前の準備は重要だと答えた営業担当者は8割以上いますが、実際に準備をしている人は3割にとどまります。差が開く理由は、やる気の差ではありません。「時間がかかるから後回しにしてしまう」「準備のスタイルが平準化されておらず『型』がつくられていない」「適切なツールがない」という3つの壁があるからです。

一人で会社を回している人は、この3つの壁がまとめて立ちはだかります。営業を教えてくれる上司もいなければ、テンプレートもありません。だから毎回ゼロから考えて、時間がかかって、後回しになります。

調べたのに、当日しゃべるのは自分の話だった

商談の前に調べ物はしたのに、当日話しているのは結局こちらの実績や料金の説明だった、という経験はありませんか。

実績並べ型かもしれません。分かってもらおうとして実績や情報を足し続け、聞いている相手が自分ごととして重ねる場面をつくれない型です。準備が足りなかったのではなく、準備した中身が全部自分の話だったからです。前夜に作り込んだのが実績一覧や過去の制作物、料金表だとしたら、それは商談の準備ではなく自己紹介の準備をしていたことになります。

たとえば「弊社はこれまでこういう実績がありまして」と自己紹介を10分続けてしまうと、相手は最後まで聞き役のままです。会が終わったあとに「いい話だった」とは言われても、次の約束にはつながりにくくなります。相手が話す時間をどこにつくるかは、事前に決めておかないと当日は生まれません。

リサーチの目的は2つしかない

事前調査の目的は、お客さんの前提を確認することと、自分の提案仮説を立てることの2つだけです。この2つに入らない情報、たとえば社長の趣味や創業年、沿革の細かい年表は、集めても当日の使い道がありません。

調べるのは「話す材料を増やすため」ではなく、「当日しゃべる量を減らして、聞く順番をつくるため」です。この方針を最初に持っておくと、調べる時間の使い方が変わります。

性格や話し方の問題ではありません。ここから先は、会う前にやることの順番の話をします。

対面で会って信頼を積み上げていく営業の全体像は対面営業の極意にまとめています。会う前の準備は、その中でいちばん最初の工程にあたります。

会う前に埋める5つの空欄 — そのまま使えるリサーチシート

5つの空欄

商談前に埋めるべき5つの空欄を五角形で示した構造図

事前準備のフレームワークは、次の5つの空欄で構成されます。

空欄どこを見れば埋まるか埋まらないときの当日の質問文
①なにを(相手が売っている製品・サービス)サービスページ、料金ページ「いまいちばん売れているのはどのメニューですか」
②どこに(相手のお客さんは誰か)実績・お客様の声、SNSの投稿内容「いまお客さんになっているのは、どういう会社が多いですか」
③どうやって(相手の売り方・集客のしかた)採用ページ、広告の有無、SNS更新頻度「いまは紹介が中心ですか、それとも問い合わせからですか」
④どんな提案をする(自分の仕事で相手にどんな得があるか)①〜③をもとに自分で考える(質問ではなく、自分の仮説として持っておく)
⑤相手のミッション(名刺交換の経緯、社内での役割)紹介者への確認、名刺交換時の会話メモ「今回は◯◯さんが窓口ということでよろしいですか」

完了の目安は、字が埋まったことではない

5項目について人にスラスラ説明できるようになった時点が、準備完了の目安です。シートに書き写しただけで、声に出して説明できないなら、まだ埋まっていません。

判定の方法は簡単です。誰もいない場所で、5項目を30秒で言えるか試してください。詰まったところが、まだ埋まっていない欄です。

埋まらない欄は、そのまま当日の質問になる

空欄を無理に埋めようとしなくて大丈夫です。埋まらない欄は、そのまま当日の質問文に変換して持っていきます。

  • ②どこに、が埋まらない → 「いまお客さんになっているのは、どういう会社が多いですか」
  • ③どうやって、が埋まらない → 「いまは紹介が中心ですか、それとも問い合わせからですか」
  • ⑤相手のミッション、が埋まらない → 「今回は◯◯さんが窓口ということでよろしいですか」

NG例は、5欄を埋めた紙をそのまま商談に持ち込んで、上から順に読み上げることです。これは準備ではなく取り調べになります。使うのは②か③のどちらか一方からで十分です。

30分で終わらせるには、どの順で調べればいいか

30分の配分

30分の準備を4ステップの時間配分で示したタイムライン図

商談前の準備には30分〜2時間を投資する価値があり、その分だけ商談後のフォロー工数を減らせます。ここでは下限の30分を、一人で回せる配分に割ります。

  1. サービスページと料金の書き方を見る(10分)
  2. 採用ページとSNSの直近3か月を見る(5分)
  3. 社名で検索して直近のお知らせを見る(5分)
  4. 見た内容を見ずに、「たぶんこの人はここで困っている」と仮説を1行書く(10分)

最後の10分を削らないでください。ここが抜けると、ただ調べただけで終わります。

最初の20分は事実、最後の10分は仮説

調べた事実は、誰が調べても同じものが手に入ります。差がつくのは、その先の仮説のほうです。

仮説は「〜で困っているのではないか」の形で、1つだけ書きます。たとえば「サイトに料金表がないのは、都度見積もりで対応している証拠かもしれない」といった1行です。2つ以上書くと、当日どれも確かめきれずに終わります。

AIに渡す部分と、渡さない部分

生成AIを週1日以上使う人の平均商談準備時間は約87分、月数回程度の人は約77分、活用していない人は約63分です。AIを使う人ほど準備時間が短くなるのではなく、長くなる傾向が見られます(因果関係は言い切れません)。AIで空いた時間の使い道として最も多かったのは「提案の質を高めるための思考時間」で43.9%でした。

つまりAIは調べる作業を肩代わりさせる道具であって、仮説を立てる最後の10分は自分でやる部分です。会社名や数字、実績はAIの出力のまま信じず、公式サイトで裏取りしてください。

NG例は、商談の前夜にまとめて2時間取ろうとして、結局30分もやらずに寝てしまうことです。時間を確保する場所を、前夜から日程確定の直後に変えます(この続きは最後の章で扱います)。

調べても何も出てこない相手は、どうする?

情報がないのではなく、公開する必要がなかっただけ

従業員数名の会社や個人事業主が相手だと、サイトは1ページ、SNSは半年前で更新が止まっている、決算資料もない、というのが普通です。読者が実際に会う相手の多くは、このくらいの規模です。

ここで「調べようがない」と手を止めてしまうのが、下調べなし型の入口です。情報がないのではなく、その相手には情報を公開する必要がなかっただけです。

サイト以外に見る4か所

  1. 求人票(何人採りたいか、どの職種か。いまどこが足りないかが分かる)
  2. 取引先・実績ページの並び(どの業種と付き合っているか)
  3. Googleマップの口コミと写真の更新日(現場が動いているか)
  4. 紹介者(いちばん確実な情報源)

この順に5分ずつ見ていけば、20分で埋まります。

紹介してくれた人に聞く3つの質問

紹介者には、次の3つを聞きます。

  • 「どういう流れで私の名前が出ましたか」
  • 「その方はいま、何に一番時間を取られていますか」
  • 「会うときに触れないほうがいい話はありますか」

これは頼み事ではなく確認です。紹介者への確認まで頼み事のように感じてしまうと、切り出せない型に戻ってしまいます。聞いていいことだと決めておいてください。

与信の調査と、商談の準備を混ぜない

調査員が実際に足を運ぶ現地調査によって、インターネットからは得られない情報や、数字に表れない定性情報まで把握できるサービスもあります。ただしこれは、新しく取引を始めるときや取引額を増やすときに損失を出さないための調べ方です。

毎回の商談準備でここまでやるものではありません。取引条件や与信に関わる個別の判断は、専門家に相談してください。

調べたことは、商談で話さない

「拝見しました」で会話が止まる

調べた事実をNGな言い方と確認の質問に変換するBefore/After図

NG例です。「御社のサイト拝見しました。◯◯に力を入れられているんですね」「はい、そうなんです」。そのあと沈黙が来て、こちらの実績説明が始まる。これはよくある流れです。

調べた成果を披露した瞬間、相手は聞く側に回ります。詰め込むほど、相手が自分の話をする場面がなくなっていきます。これが実績並べ型の再発です。

事実を、確認の質問に変える3例

調べた事実そのまま言う(NG)確認の質問に変える
採用ページで営業職を2名募集「営業の方を増やされるんですね」「営業の方を増やす予定と拝見しましたが、いまは社長が動かれているんですか」
料金ページが一式表記「料金、一式なんですね」「見積は一式でお出しすることが多いですか」
実績が飲食店中心「飲食店さん、多いんですね」「飲食のお客さんが中心なのは、そうなった流れですか、狙っていますか」

語尾を断定で終わらせず、相手が説明したくなる形に変えます。

仮説は、当てにいかない

事前調査のもう一つの目的は、提案仮説を立てることです。この仮説は、当日その場で外して直すために持っていくものです。

「◯◯で困っているのではと思って来ました。違っていたら教えてください」と最初に置くと、外れたときに相手が訂正してくれます。逆に仮説を当てにいくと、外れた仮説を守るために説明が増えていきます。

調べたことのうち、当日口に出すのは2〜3個までと数で決めておいてください。

準備が効いたかどうかは、負けた理由でしか分からない

BtoBは7〜8割が決まらない

受注率5pt改善とリード25%増が釣り合うことを示す天秤図

BtoB営業のパイプライン全体の受注率は20〜30%程度が一般的です。つまり失注率は70〜80%になります。決まらないのが普通だと、先に置いておきます。断られた回数を、自分の値打ちの証拠にしないでください。

新しいスキルより、負け方を知るほうが早い

受注率を5ポイント改善できれば、リード数を25%増やしたのと同じ効き目になります。新しいスキルを身につけるより、「なぜ負けているか」を正確に理解して手を打つほうが効率的です。

読者の多くは大量の商談を同時に抱えているわけではないので、率で測るのではなく、1件ずつ理由を残す形に翻訳します。

3行の失注メモ

商談が流れた日に、3行だけ書きます。

  1. 5つの空欄のうち、当日ズレていた欄はどれか
  2. 相手が一番長くしゃべった話題
  3. 次に同じ相手に会うとしたら、最初に聞くこと

10件たまると、同じ欄が繰り返し外れていることに気づきます。準備の量を増やすのではなく、外れている欄を直していきます。

準備不足そのものが失注の何割を占めるかを示した調査は確認できていないので、この記事では割合を書きません。

日程が決まった日に、10分だけ取る

前夜ではなく、日程確定の直後

準備が後回しになる理由の一つは、時間がかかることです。前夜にまとめて取ろうとするから、結局飛んでしまいます。

日程を返信したその流れで、10分だけ使います。5つの空欄のうち、①なにを、と⑤相手のミッション、の2つだけ埋めます。残り3欄は当日までの20分で埋めます。

今週の1件だけでいい

すべての商談で一気に回そうとしなくて大丈夫です。今週いちばん決めたい1件を選んで、30分の配分(10分・5分・5分・10分)を1回試してください。

1回でも回すと、次から型として手元に残ります。型がないことが、準備が止まる理由の一つだったからです。

準備は、性格を変える話ではない

話がうまい必要はありません。調べる順番と、聞く順番を決めておけばいいだけです。

5欄のリサーチシート、30分の配分、空欄を質問文に変える対応表、そして3行の失注メモ。この4つは、今日の1件から使えます。全部を完璧にそろえる必要はありません。

人見知りのままでいいです。

よくある質問

商談の事前準備は、どこまで調べれば十分ですか?

量ではなく、5項目(なにを/どこに/どうやって/どんな提案/相手のミッション)を人にスラスラ説明できるかで判断します。書き写しただけで声に出して言えないなら、まだ埋まっていません。

商談前の準備にかける時間の目安は?

30分〜2時間が目安で、その分だけ商談後のフォロー工数が減ります。一人で動くなら下限の30分から。最後の10分は調べる時間ではなく、仮説を1行書く時間に使います。

相手が小さい会社で、調べても情報が出てこないときは?

求人票・取引先の並び・Googleマップの口コミ・紹介者への3つの質問で埋めます。情報がないのではなく、公開する必要がなかっただけです。取引を始めるときの与信の調査とは目的が違うので混ぜません。

調べたことは商談で全部話したほうがいいですか?

話しません。口に出すのは2〜3個までで、しかも「拝見しました」ではなく確認の質問に変えます。披露すると相手が聞く側に回り、こちらの説明ばかりになります。

商談前のリサーチにAIは使えますか?

調べる作業には使えます。生成AIを週1日以上使う人の平均準備時間は約87分、使わない人は約63分で、使う人ほど準備時間は長い傾向があります(因果関係は言い切れません)。空いた時間の使い道の1位は提案の質を高める思考時間です。数字や社名の裏取りは公式サイトで自分で行ってください。

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参照した情報源

  1. 商談前の事前準備、「調べる」だけで大丈夫? 営業成果に直結する仮説を深める情報収集とは(SalesZine(翔泳社))・確認日 2026-09-05
  2. HubSpotが「日本の営業に関する意識・実態調査2026」の結果を発表(HubSpot Japan株式会社)・確認日 2026-09-05
  3. BtoB企業が取り組むべき失注分析/失注商談から受注率を改善するフレームワーク(株式会社StartLink)・確認日 2026-09-05
  4. 気になる企業の信用や動向を調べたい(株式会社帝国データバンク(TDB))・確認日 2026-09-05
  5. これだけは押さえる!訪問前に営業がすべき事前準備のフレームワーク(株式会社Innovation & Co.(urumo!))・確認日 2026-09-05

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